2026年から最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」と呼ぶようになりました。今年は、テレビなどでも熱中症の予防を呼びかける機会がさらに増えたように感じます。
普段から屋外で仕事や農作業をされる方はもちろん、お子さんの部活の応援やゴルフをした際に軽い熱中症にかかったという話をよく聞きます。
熱中症というのは単なる「暑さによる体調不良」ではなく、体温を調節する仕組みが破綻し、全身の臓器にダメージを与える危険な状態です。重症になると意識障害や多臓器不全を起こし、命に関わることもあります。
今回は、熱中症が起こる仕組みと症状、そして中医学的な予防・対処法についてご紹介します。
体温調節と熱中症の仕組み
人間の身体は、深部体温を約37℃前後に維持するようになっていますが、暑い時に以下のような仕組みで体温を下げます。
- 脳(視床下部)の体温調節中枢が皮膚や深部体温からの情報を受取り、体温を下げるよう指令を出す
- 皮膚の血管を拡張し、熱を体表から放散する
- 発汗することで、気化熱により体温を下げる
しかし、気温が体温近くになってくると、体表からの放熱や発汗では体温調節が追いつかなくなります。大量に汗をかいて水分や塩分が減ると、血液の量が減り、体表や汗腺へ十分に血液や水分がいきわたらず、さらに体温が上がります。
また、深部体温が40℃前後を超えるようになると、脳(視床下部)の神経細胞も障害を受け、発汗の調節、皮膚血流の調節、自律神経の制御がうまく働かなくなります。
こうして体温が上昇を続けることになり、脳の他にも心臓、腎臓、肝臓など全身の臓器に負担をかけ、重症例では意識障害やけいれん、多臓器不全へ進行することもあります。
つまり熱中症とは、単に「暑いから具合が悪くなる」のではなく、「身体の体温調節システムが破綻した状態」です。
熱中症になりやすい状況
熱中症は気温が高い日だけに起こるわけではありません。高温・多湿・風が少ない環境では、汗が蒸発しにくくなり、体温を十分に下げられないため、熱中症のリスクが高まります。
また、室内でも安心はできません。エアコンを使用していない部屋や風通しの悪い場所では熱がこもりやすく、室内で熱中症になるケースも少なくありません。
特に高齢者は注意が必要です。加齢により暑さや喉の渇きを感じにくくなるほか、発汗機能も低下するため、気付かないうちに脱水や体温の上昇が進んでしまうことがあります。
睡眠不足や夏バテ、脱水、暑さに身体が慣れていない時期も、体温調節機能が低下し、熱中症を起こしやすくなる要因で注意が必要です。
熱中症の症状
熱中症は重症度によって症状が異なります。
軽症
めまい、立ちくらみ、大量の発汗、筋肉のけいれん(こむら返り)、だるさなどが現れます。汗を大量にかくことでナトリウムなどの電解質が失われるため、筋肉が正常に収縮できず、足がつるなどの症状が起こりやすくなります。
中等症
頭痛や吐き気、嘔吐、強い倦怠感、判断力の低下といった症状が出現します。脳の血管拡張や脱水による脳の血流低下などにより頭痛を引き起こします。また、体温上昇により嘔吐中枢が刺激されることや胃腸の血流が低下することが吐き気の原因となります。
重症
意識障害(呼びかけへの反応が鈍い、会話が成り立たない)、けいれん、著しい高体温といった症状が現れます。この段階は高体温によって脳や重要臓器に障害が生じている状態で、命に関わる危険な状態であり、直ちに救急搬送が必要です。
「少し休めば治るだろう」と我慢してしまうことが重症化につながるため、異変を感じたら早めの対応が大切です。
中医学的な熱中症の対処法
中医学的に熱中症は、六淫と呼ばれる外部要因のうち、「暑邪(しょじゃ)」や「火邪(かじゃ)」と呼ばれる過剰な熱の邪気が原因と考えます。これらの邪気を受け、「気分熱盛(きぶんねっせい)」や「気陰両虚(きいんりょうきょ)」と呼ばれる状態に陥っていると捉えて漢方薬を選びます。
気分熱盛
「暑邪」や「火邪」によって「大熱、大渴、大汗、脈洪大」という四大症状が出ている状態を「気分熱盛」と呼びます。具体的には、高熱、非常に強い喉の渇き(冷たいものを欲する)、大量の汗、そして力強い脈(洪大脈)がある状態です。
「気分熱盛」を治療するための代表的な漢方薬は、「白虎加人参湯」や「竹葉石膏湯」で、強い清熱作用を持っています。また、解熱、鎮痙、強心作用の効果がある生薬の「牛黄」を含んだ「霊黄参」も素早く熱を抑える働きがあります。
気陰両虚
大量に汗をかくことで、エネルギーと潤いが消耗した「気陰両虚」という状態になります。この状態には、「気陰」を同時に補うことができる「生脈散(麦味参顆粒)」がお勧めです。
生脈散に清熱作用はありませんが、動物実験などの薬理研究では、高温環境下で体温上昇を抑える働きが報告されており、熱中症対策として応用的に用いる事ができます。
さらに症状が進行すると、消耗した「気」と「陰」が回復できないほど失われた「気陰両脱」の状態に至ることもあります。この段階では意識障害やショックなど生命に関わる重篤な状態となるため、速やかな救急治療が必要です。
熱中症予防に五苓散は適切か?
夏になるとドラッグストアやSNSで、熱中症予防に「五苓散」が有効だという話が増えてきます。しかし、実際には熱中症に「五苓散」が適応するケースは限られており、多くの熱中症では第一選択とはなりません。なぜ多くの方が五苓散を誤って推奨しているのかについては、また次の記事で詳しく解説していきます。
熱中症を防ぐための養生
熱中症は、発症してから対処するよりも、日頃から予防することが何より大切です。中医学では「未病(みびょう)を治す」という考え方があり、体調を崩す前から身体を整えておくことを重視します。
小まめな水分・電解質補給
喉が渇いたと感じた時には、すでに軽い脱水が始まっていることがあります。喉の渇きを感じる前から、少量ずつこまめに水分を補給しましょう。
大量に汗をかいた場合は、水だけではナトリウムなどの電解質が不足するため、経口補水液やスポーツドリンク(糖分の摂り過ぎには注意)などを状況に応じて活用するとよいでしょう。
暑さに身体を慣らす(暑熱順化)
暑さに慣れていない時期は、発汗機能や血液循環が十分に働かず、熱中症のリスクが高くなります。梅雨明け前後や急に暑くなった時期には、ウォーキングや軽い運動、ぬるめの入浴などで少しずつ汗をかく習慣をつくり、身体を暑さに慣らしていくことが大切です。
十分な睡眠をとる
睡眠不足になると、自律神経の働きが乱れ、発汗や皮膚血流による体温調節機能が低下しやすくなります。また、疲労が蓄積すると暑さへの耐性も落ちるため、質の良い睡眠を確保し、身体をしっかり回復させましょう。
冷たいものの摂り過ぎに注意する
暑い日は冷たい飲み物やアイスが欲しくなりますが、摂り過ぎると胃腸の働きが低下し、水分や栄養を十分に吸収できなくなることがあります。中医学では、胃腸は「気」を作る源と考えます。胃腸が弱ると夏バテや疲労感につながりやすいため、冷たいものは適度にし、温かい食事も取り入れることが大切です。
「気」と「陰」を補う食事を意識する
中医学では、夏は汗とともに「気」と「陰」が消耗しやすい季節です。豚肉、豆腐、卵、山芋、オクラ、トマト、きゅうり、スイカ、梨などは、身体を潤しながら体力の消耗を補う食材として知られています。特にスイカは「天然の白虎湯」と呼ばれ、熱を冷ましながら渇きを癒す働きに優れた食材です。
まとめ
熱中症は、体温調節機能が破綻することで起こる全身性の病気です。大量の発汗による水や電解質異常だけでなく、高体温そのものが脳や心臓、腎臓、肝臓などの重要な臓器にダメージを与えるため、決して軽く考えてはいけません。
また、中医学では暑さだけでなく、「気」と「陰」の消耗まで含めて熱中症を捉えます。
「まだ大丈夫」と無理をせず、早めの水分・電解質補給と休息を心掛けながら、中医学の知恵も上手に取り入れて、暑い夏を元気に乗り切りましょう。
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