昨今、私たちの体に共生する多種多様な微生物が注目されています。中でも、様々な細菌が集まる「腸内細菌」は、“腸活”という言葉とともに広く一般に知られるようになりました。
研究では、腸内細菌は胃腸症状だけでなく、免疫系や代謝系のさまざまな不調との関連が示唆されています。
今回は、私たちの身体を根本から支える「腸内細菌」についてお伝えしていきます。
目次
お腹だけに留まらない腸内細菌の働き
1990年代後半以降、人間のゲノム解析が進み、人間の遺伝子数は当初予想されていたよりもはるかに少ないことが分かってきました。
一方、私たちの腸内には数多くの細菌が存在しており、それぞれがさまざまな遺伝子を持っています。腸内細菌が持つ遺伝子を合わせると、その数は人間自身が持つ遺伝子をはるかに上回るとされています。
なぜ私たちは、これほど多くの遺伝子を持つ腸内細菌と共存しているのか。その理由の一つは、腸内細菌が人間自身にはないさまざまな機能を担っているからです。例えば、消化酵素を出して消化吸収を助けたり、腸内環境を整えたり、免疫の調整を支える働きがあります。
つまり、私たちの身体は人間自身の遺伝子だけで成り立っているのではなく、腸内細菌と互いに関わり合いながら成り立っています。
理想的な腸内細菌のバランス
細菌群は主に「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに分けられます。
- 善玉菌:炭水化物を中心に分解する菌(乳酸菌、ビフィズス菌など)。
- 悪玉菌:タンパク質を中心に餌にする菌。
- 日和見菌:善玉菌にも悪玉菌にもなり得る菌。体調によって働きが変わる。
腸内細菌叢の理想的な全体バランスは、善玉菌:悪玉菌:日和見菌が「2:1:7」であるとされています。
腸内環境を理想的に保つには、腸内細菌の7割を占める日和見菌が善玉菌の味方として働ける状態に整えることが重要です。そのためには、善玉菌・悪玉菌・日和見菌の“バランス”が何より大切で、悪玉菌がただ悪いというわけではなく、善玉菌だけを増やせばいいというわけでもありません。
※これらの数値や分類はあくまで一般的な目安であり、個人差があります。
腸内細菌に良い影響を与える習慣
腸内細菌の多様性と健全なバランスを保つためには、「菌の餌」を適切に与え、「細菌が住みやすい環境」を整えるために以下の様なものが大切になります。
①水溶性食物繊維を積極的に摂る
腸内細菌の大半を占める日和見菌の中でも、腸管バリア機能を高める働きで注目されているのが「酪酸菌」です。「酪酸菌」は水溶性食物繊維をエサに増えるため、海藻類、きのこ類、大豆や納豆などの食品を意識的に取り入れることが効果的です。これらの食品を摂ることは、酪酸菌を増やし、結果的に免疫機能を底支えすることにつながります。
②伝統的な日本食を心がける
脂肪の多い加工肉や食物繊維が極端に少ない食事は悪玉菌が増えやすくなるため、味噌汁、ご飯、魚などを中心とした伝統的な日本食が腸内環境のバランスを保つのに理想的です。
③多角的に菌の「餌」を補給する
特定の乳酸菌を外から補うよりも、すでに腸内に存在している多種多様な菌に、幅広く栄養(エサ)を届けることの方が重要です。腸内細菌の多様性を高めるためには、“食材の種類を増やすこと”がポイントで、週に30品目以上の食品をとるのが1つの目安です。
腸内細菌に悪い影響を与える習慣
腸内細菌のバランスを崩してしまう悪習慣を避けることは、良い習慣を取り入れる以上に重要です。
①抗生物質や強い薬の多用
抗生物質は、菌の数や種類を減らしてしまい、腸内バランスが大きく崩れる原因になります。
②胃酸抑制剤の常用
胃酸は口から入る微生物を殺菌する関所の役割を持っています。PPIやP-CABなどの強い制酸剤で胃酸分泌が抑えられると殺菌がうまくいかず、本来腸内で増えてほしくない菌が勢力を拡大する危険性があります。
③冷たい飲食物の過剰摂取と夜遅い食事
冷たいものは腸の温度を低下させ、腸を保護する粘液層の働きを弱めるため、細菌が住みにくい環境をつくってしまいます。また、午後8時以降の食事は胃腸が本来休むべき時間に負担をかけ、消化が滞りやすくなることで腸内環境を大きく乱します。
④肥甘厚味の過剰摂取
肉類や揚げ物、甘い物の過食は、悪玉菌が増えやすい環境をつくり、腸内環境が乱れやすくなります。
⑤小麦粉や乳製品の過剰摂取
小麦粉に含まれるグルテンや牛乳に含まれるカゼインは、難溶性タンパク質であり、摂取過多は腸内環境に悪影響を及ぼします。
⑥乳酸菌飲料の過剰摂取
乳酸菌は善玉菌の一種ですが、腸内細菌には“バランス”がとても重要です。乳酸菌ばかり大量に摂り続けると、特定の菌だけが増えてしまい、腸内細菌のバランスが崩れ、多様性が下がる可能性があります。さらに、市販の乳酸菌飲料は糖分が非常に高いため、むしろ腸内環境を乱す要因になることもあります。
⑦口呼吸の習慣
口呼吸の習慣は、口腔内の細菌バランスを変え、それが間接的に腸内環境に影響を与える可能性が指摘されています。
乳酸菌の落とし穴
①生きて腸まで届く乳酸菌
特定の乳酸菌を摂取することにこだわり過ぎる必要はありません。よく「生きて腸まで届く乳酸菌」と謳われていますが、腸内には既に何年も生存競争を勝ち抜いてきた菌が住み着いており、外部から少し入ってきた程度では簡単に変化しないと言われています。菌が生きて届いたとして、そこで定着できるかは分からないのです。
②お勧めの腸活は「育てる」こと
腸内環境を整える方法としては「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」の2つがあります。
プロバイオティクスは腸内の善玉菌そのものを摂取することで、乳酸菌やビフィズス菌などの微生物を直接体に取り入れる方法です。一方、プレバイオティクスは、もともと腸内にいる菌のエサとなることで、腸内細菌の増殖や働きをサポートします。ここで大切なのは、善玉菌だけを増やすことにこだわるのではなく、善玉菌や日和見菌など、さまざまな腸内細菌がバランスよく存在できる環境をつくることです。
腸内細菌は、それぞれが影響し合いながら一つの生態系をつくっています。プレバイオティクスによって腸内細菌が利用できる栄養を届けることは、特定の菌だけを増やすというより、腸内細菌が本来の力を発揮しやすい環境を育てることにつながります。
「良い菌を入れる」だけでなく、「腸内にいる菌が元気に働ける環境をつくる」。これがプレバイオティクスの大きな魅力の一つです。
漢方薬と腸内環境
中医学において、腸内細菌という考え方はありませんが、伝統的に使われてきた漢方薬には、腸内環境を正す働きがあるものがあります。
(1)腸の粘膜を強化する漢方薬
腸内細菌は腸壁を覆う粘液層に住み着いています。つまり、腸内環境を整えるには、この粘液層を強化する必要があります。中医学でいう「脾陰」は消化管の粘液層に相当すると考えられています。
小建中湯や参苓白朮散は、腸管の粘膜を整える働きがあるとされ、消化酵素が入った漢方には腸内細菌のバランスを整える働きがあると考えられています。
(2)炎症を抑える漢方薬
腸管の炎症は腸内細菌のバランスに大きな影響を与えます。炎症がある場合には、清熱解毒の働きを持った漢方薬が効果的です。
まとめ
私たちの健康は、腸内細菌との協力関係によって支えられています。あなたの不調の背景には、腸内細菌の乱れが隠れているかもしれません。
今回、ご紹介した腸内細菌を整えるための養生法は、実は一般的な養生法と何ら変わりません。まずは毎日の食事などから整えていくことをお勧めします。
それでも気になる不調がある方は、漢方薬や腸活サプリを試してみてはいかがでしょうか?
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