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虚血性大腸炎の漢方的治療方法

2024.10.26

高ストレス社会の現代においては、若い方から年配の方まで胃腸の不調を訴える方が多くいらっしゃいます。そのような中、腹痛を伴うような胃腸炎の相談を受ける度に、お腹の症状と漢方というのは相性が良いなと感じています。

今回は、最近相談のあった虚血性大腸炎について解説していきます。

1.虚血性大腸炎とは

虚血性大腸炎は、何らかの原因で大腸に十分な血液が行き届かなくなること(虚血)で、大腸の血管が一時的に詰まり、粘膜に炎症や潰瘍などが発生し、血便や腹痛などの症状が現れます。

現在、虚血性大腸炎に対する特効薬はなく、高齢者や慢性便秘の人、女性に多く見られるという特徴があります。虚血性腸炎は一時的な血流の障害ですが、完全に血流が滞ってしまうと重篤で手術が必要な病気を引き起こす可能性があります。

ちなみに先日、名俳優の西田敏行さんが亡くなった原因とされる虚血性心疾患は、心臓の血管が動脈硬化や血栓などで狭くなったり閉塞したりして、心臓に血液が行き渡らないことにより、酸素や栄養が不足する病気です。

大腸炎であれ心疾患であれ、何かの原因で血流が届かないことが虚血性と名の付く病気の原因となります。

2.中医学的な虚血性大腸炎の原因

基本的に上述の通り、血液が大腸に届かないことが原因と捉えますが、それは漢方的には血の量が不足していること(血虚)や流れが悪いために大腸の粘膜に血が届かないこと(瘀血)が主な問題と考えます。

漢方治療の際は、血流が悪化する原因が他にもないか確認することが大切です。冷えはないか、痛みの程度、ストレス、出血の有無、食欲の有無、便通などを聞き取りさせていただきながら漢方を使い分けていきます。

3.虚血性大腸炎に使う漢方の選び方

①血が足りない血虚タイプ

水量が少なく干上がってしまいそうな川の流れでは、川下に十分な水を届けることはできません。それは私たちの体の中でも同じことで、十分な量の血がない状態では、血流も滞ってしまいます。

血の量が不足する血虚タイプは、顔色が白や黄色に近い、肌や髪の艶がない、爪が脆い、立ち眩みや睡眠が浅い、舌の色が淡く、生理周期が長い、経血の色が淡いといった特徴があります。

血虚タイプには血を増やす基本処方である「四物湯」がベースになった漢方をよく用います。また、血をしっかりと作るための栄養吸収が弱い場合には、胃腸の働きを良くするものを選びます。血を増やす漢方というのは、栄養分がたっぷり含まれているのでやや消化に負担がかかる場合があり、血虚タイプの中には胃腸があまり強くない方も多く見受けられるため、血の不足と胃腸の強さについてよく見極める必要があります。

②血の流れが悪い瘀血タイプ

最初は大きな川であっても、支流に枝分かれしていく度に川幅は細くなり、やがて水量も少なくなってきます。そうした時にゴミが詰まっていたり、水がドロドロしていたりする場合、水の詰まりというのは起きやすくなります。

私たちの体の中でも同じで、血液が全身を巡るうちに血管は次第に細くなり、毛細血管に至っては赤血球が通るのにぎりぎりの細さになります。この時、赤血球というのは自分よりも狭い血管を通り抜けるために形を変える能力を備えていますが、こうした能力を失ったり、要らないゴミが溜まったり、ストレスで体も血管も委縮した状態であると、体のあちこちで血流が滞ってしまいます。

こうした血流が悪い瘀血と呼ばれるタイプは、顔色や舌の色が暗い、肩こりや頭痛、肌の艶がない、慢性的なストレスにさらされている、経血が暗い、経血に塊があるなどの特徴があります。

このタイプには血流を良くする丹参や田七人参と言った生薬が入った漢方を選びます。特に田七人参は血流を良くすると同時に止血効果があるので、血便など出血がみられる場合には優先的に使いたい生薬です。

③腹痛が強いタイプ

冷えている状態というのは物の流れを悪くします。また緊張して力が入った状態というのは表面的な筋肉だけでなく、内臓や血管もまた固くなります。このようにお腹の冷えや緊張があると血流が滞る原因となり、また発症した際に痛みを伴うことが多くなります。こうした場合は腹部を温めながらも緊張を取るような漢方を使うと改善することが多いです。

4.改善例

改善例①若い頃から半年~年に1度は虚血性大腸炎になるというIさん。(50代女性)

虚血性大腸炎が再発してしまい、病院に行った帰りに漢方だったら根本的に治療ができないかということでお立ち寄りいただきました。

これまで虚血性大腸炎を発症した場合に出血することもあるそうですが、この時は痛みと下痢が主な症状。ちょうど仕事も忙しく、子育て世代でリラックスできないことが原因であることが伺えました。また、日頃から食が細い方で、食べ過ぎや脂っこい食事で下痢することがあるということでした。

初診では、お腹を温めて緊張を緩めてくれる漢方と、要らない水分を出しながらも胃腸の働きを強くし、同時に粘膜を強くすることで下痢を治す漢方を2週間分処方しました。

2診目では、痛みは全くなくなったということで、お腹を温めて緊張感を緩めてくれる漢方を3週間分処方しました。

3診目では、顔色も明るくなって体調が良いことが伺えましたが、ご本人の希望もありもう1か月分同じ処方を続けました。

その後、虚血性大腸炎が再発する様子がないことから、血を増やしながら血流を改善する漢方を続けていただいています。前よりも体が冷えることがなくなったと喜んでいただきました。

改善例②しばらくの間、過労と寝不足、ストレスを抱えていたYさん。(60代女性)

突然、腹痛と便意がありトイレに行くと便は出ずに下血されたことから、病院で検査を受け、虚血性大腸炎と診断されました。下血の回数は減ってきたが、腹痛が治まらずに漢方でどうにかできないかと来店されました。

この方には胃腸の働きを上げながら血を増やす漢方と、血流を良くしながら止血ができる物を処方しました。1か月後、出血と痛みもだいぶんなくなったということで、再発防止のために量を減らしながらも同じ処方を続けていただいています。

まとめ

虚血性大腸炎は痛みや出血を伴うことが多く、生活の質を大きく低下させてしまいます。また、病院で治療を行って一時的に改善したとしても定期的に再発してしまうことが多いため、漢方や生活習慣を改善することで根本的な原因を取り除くことが重要です。

また、大きな病気に繋がる前に体質を改善すること「未病先防」こそが東洋医学が最も大切だと考えています。今は症状が出ていないけれど、昔から何度も再発を繰り返しているという場合も、発症していないうちから体質改善することは大きな意味を持つと私達は考えています。

細かな体質や症状の違いにより、どの漢方を使うかは異なりますので、お悩みの方はぜひ漢方相談をご検討ください。

電話相談やオンライン相談も承っております。

薬草の森はくすい堂 権藤

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