「ヒリヒリとした痛みが続く」「片側だけに発疹が出てきた」
こうした症状で受診し、「帯状疱疹」と診断されて驚かれる方は少なくありません。
私たちの体の中には、一度感染すると一生排除できない「潜伏ウイルス」が存在します。その代表格が、子供の頃に感染する水疱瘡(みずぼうそう)が原因となる「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。かつての感染が、数十年後に「帯状疱疹」として現れることがあります。
今回は、相談の現場でも増えている帯状疱疹について、特徴から診断、治療、そして中医学(漢方)的な対処法まで解説していきます。
帯状疱疹の概要
帯状疱疹は、体内の神経節に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化することで起こります。
子供の頃に水疱瘡にかかると、治った後もウイルスは脊髄後根神経節などの神経細胞の中に隠れ、数十年間も「休眠状態」を続けます。加齢や疲労、ストレスによって免疫力が低下した際にウイルスが再び目覚め、神経を伝わって皮膚に到達し、炎症を引き起こします。
日本では年間60万人が発症すると推定されており、80歳までに3人に1人が発症するとされています。特に50代から急激に増加し、70代でピークを迎えます。高齢化の影響もあり、日本では1997年〜2019年で帯状疱疹の発症者は63.8%増加しています。また、最近では新型コロナウイルスの流行やワクチン接種後に発症した報告もありますが、因果関係は明確ではないものの、免疫の低下が関係しているのではという意見もあります。
同じウイルスを起源とする帯状疱疹と水疱瘡ですが、発症の時期については反比例することが知られています。帯状疱疹は5月から10月の暑い時期に増加し、水疱瘡が増加する冬には減少する傾向があります。
帯状疱疹の症状
帯状疱疹を早期に発見するためのポイントは、症状の「現れ方」と「場所」にあります。
初期症状(前駆痛)
皮膚に発疹が出る数日前から、ヒリヒリ、チクチクとした神経痛が始まります。この段階では皮膚に変化がないため、筋肉痛や他の病気と誤解され、診断が遅れる原因となります。
帯状疱疹の特徴
神経の走行に沿って帯状の赤い発疹や水疱が現れ、ズキズキ、ジンジンとした痛みを訴えます。完全に皮膚の炎症が収まるのは3週間程かかることが多く、その後は痛みがなくなるまでに3か月程かかることも少なくありません。
特に目の周囲に症状が出る「眼の帯状疱疹(HZO)」は、角膜炎や視力障害を引き起こす可能性があり、早急な眼科受診が必要となる緊急性の高い状態です。
好発部位
胸や背中の「肋間神経」に沿って出るのが最も多いですが、顔の「三叉神経」に出る場合もあります。顔に出る場合は、視力低下や失明、顔面神経麻痺などの深刻な合併症を伴うリスクがあるため注意が必要です。また、症状が現れるのは体の左右どちらか片側だけで、「正中線(体の中心)」を越えないという特徴があります。
帯状疱疹後神経痛(PHN)
発症してから3か月以上経ち、皮膚病変が回復しても痛みが残っている状態を帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼びます。以下のような特徴があります。
- 針で刺されるような痛み
- 電気が走るような痛み
- 焼けるようなひりひりする痛み
- 衣服が擦れたり、冷風にあたるような軽微な刺激で痛みが増強する
特に高齢者や、急性期に強い痛みを伴っていた場合はPHNへ移行するリスクが高いとされており、早期治療と適切な痛みのコントロールが重要です。
帯状疱疹の治療法(西洋医学)
急性期
発症間もない急性期には抗ウイルス薬による治療が中心です。代表薬は、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなどの核酸系抗ウイルス薬です。
特に、発疹出現から72時間以内に治療を開始することが重要とされており、このタイミングでの治療開始が、症状の軽減や帯状疱疹後神経痛(PHN)の予防に大きく関わります。
ウイルスが激しく増殖するのは発症から5日間であるため、この時期の増殖を抑えることで神経や血管へのダメージを最小限に抑え、後遺症のリスクを下げることができます。
慢性期
抗ウイルス薬は通常7日間投与されますが、症状に応じて延長されることもあります。その後はウイルス増殖を抑える治療から、痛みのコントロールが中心となります。カロナールなどの非ピリン系解熱鎮痛薬やロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬などが用いられます。
また、水膨れが酷く皮膚症状が重い場合には、塗り薬が補助的に使用されることがあります。
帯状疱疹ワクチン
65歳以上の方を対象に定期接種の助成制度が導入されており、主に2種類のワクチンが利用されています。
生ワクチン
1回接種で費用が安価(約9,000円)ですが、持続期間は約5年、予防効果は約50〜60%程度とされています。
不活化ワクチン(シングリックス)
2回接種で費用は高額(計約4万円)ですが、持続期間は9年以上、予防効果は90%以上とされています。
ワクチンは免疫を刺激して発症を防ぎますが、免疫の根本的な低下を改善するものではないため、自身の体調管理も並行して行うことが重要です。
中医学的な対処法
中医学では、帯状疱疹を「蛇串瘡(じゃかんそう)」「蛇丹(じゃたん)」などと呼び、経絡(気血の通り道)が塞がれることで起こる「痺症(ひしょう)」に分類されます。
急性期
帯状疱疹を発症して3週間以内の急性期については、「湿熱」「経絡瘀阻」と捉え、西洋医学と異なり「邪気を外に追い出す」ことを重視します。
- 竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう):湿熱を取り除き、炎症を抑える
- 銀翹散(ぎんぎょうさん):清熱解毒作用を持つ生薬によって体表に停滞した邪気を発散させる
- 田七人参(でんしちにんじん):局所の血流を改善し、炎症による血栓を防ぐことで痛みを和らげる
慢性期
発症から3週間が経過しても痛みが残る場合は、「気血不足(きけつふそく)」や「絡脈瘀阻(らくみゃくおそ)」、「心神不寧(しんしんふねい)」と捉え、経絡の詰まりを取ったり、神経過敏を抑えることで治療します。
- 玉屏風散(ぎょくへいふうさん):エネルギーである気を補うことで血を動かすことを助ける(他の活血薬と併用)
- 冠元顆粒(かんげんかりゅう):血流を改善するとともに、交感神経の興奮を鎮める働きがある
- 帰脾湯(きひとう):血を補いながら不安感を鎮めることで、過敏になった神経を抑える
- 蟻製品:血流を改善し、詰まった経絡を通す働きがある
帯状疱疹後神経痛(PHN)
発症から3ヶ月経っても残る痛みは、「気血不足」「経絡瘀阻」と捉えて治療します。慢性期に使う漢方薬に加え、以下のような漢方を併用します。
- 水蛭(すいてつ)製品:頑固な瘀血(おけつ)を取り除くことで神経の通りをスムーズにする
- 温胆湯(うんたんとう):痛みのストレスで昂った交感神経を鎮め、過敏になった脳の興奮を抑える
改善例
70代女性。年末年始に人と会う機会が増え、疲れが溜まったことで帯状疱疹を発症されました。
来局時には以下のような状況でした。
- 脇や背中に水膨れのある発疹が出ている
- すぐに病院で抗ウイルス薬を処方されたが、痛みがなかなか治まらない
発症した場所から肝胆系の湿熱だと捉え、竜胆瀉肝湯と清熱解毒の漢方を処方しました。
漢方を併用してから痛みは徐々に収まり、2週間が経過した頃には痛みは気にならない程度に軽減。その後も1か月継続し、後遺症もなく元気に過ごされています。
※改善には個人差があります。
まとめ
帯状疱疹は何より早期の治療が大切ですが、西洋薬と併用して漢方薬を使うことでより早く症状を鎮めることができます。
神経痛だけでなく、視力低下や脳卒中などの後遺症になるリスクがあり、さらに炎症による血流障害は、脳の血流低下と神経炎症を招き、認知症の原因となるという研究もあります。
生活の質を大きく低下させる帯状疱疹の後遺症を防ぐためにも、西洋薬による治療だけでなく、漢方の併用もご検討いただけますと幸いです。
◎参考文献
公益社団法人日本皮膚科学会「帯状疱疹診療ガイドライン2025」
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/Taijouhoushin2025.pdf
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