「しゃがんだ状態から立ち上がれない」
「髪をとかそうとすると腕が上がらない」
「階段を上るのがつらい」
こうした不調はただの疲れではなく、多発性筋炎と皮膚筋炎と呼ばれる自己免疫疾患が原因となっていることがあります。筋肉が徐々に力を失っていくこの病気は、最初は疲労や体調不良と思われやすく、発見が遅れることも少なくありません。
近年では治療の選択肢が広がり、病気のタイプを自己抗体によって分類することで、より個別化された治療が行われるようになっています。また、西洋医学による治療に加えて、体全体のバランスを整える中医学(漢方)の視点を取り入れることで、症状のコントロールや体調管理の一助となることもあります。
本記事では、多発性筋炎・皮膚筋炎の基礎知識から、診断のポイント、最新の治療法、そして中医学的な対処法までを詳しく解説します。
多発性筋炎・皮膚筋炎の概要
多発性筋炎(PM)と皮膚筋炎(DM)は、原因不明の自己免疫反応により、筋肉や皮膚に炎症が起こると考えられています。厚生労働省の指定難病に含まれる膠原病の一つで、両疾患を合わせて約28,000人以上の医療受給者が報告されています。
- 多発性筋炎
筋肉の炎症が主体で、特徴的な皮膚症状を伴わないもの - 皮膚筋炎
筋肉の炎症に加え、特徴的な皮疹(皮膚症状)を伴うもの
ただし近年では、自己抗体や筋生検の結果に基づいて、より細かい病型に分類されるようになっています。現在では、筋炎は自己抗体ごとに異なる臨床像を示すことが理解されつつあります。
自分の免疫システムが誤って自身の筋肉や皮膚を攻撃してしまうことで発症すると考えられています。遺伝的要因に加え、ウイルス感染や薬剤、ストレスなどが引き金となる可能性が指摘されていますが、はっきりとした原因はまだ解明されていません。
女性に多く、男女比は約1:2~3、発症年齢は5~14歳の小児期と、45~65歳の成人期の二つのピークがあります。
主な症状
筋肉の症状(両疾患に共通)
炎症は主に、肩や太ももなど、体の中心に近い筋肉(四肢近位筋)に起こります。そのため次のような動作が困難になります。
- しゃがんだ状態から立ち上がれない
- 階段を上るのがつらい
- 髪をとかすときに腕が上がらない
- 頭を枕から持ち上げられない
- 高いところの物が取れない
また、筋力低下が主症状ですが、筋肉痛や筋肉のだるさを伴うこともあります。
進行すると、ものを飲み込む筋肉(嚥下筋)に障害が起き、食べ物が詰まりやすくなることもあります。
皮膚症状(皮膚筋炎の場合)
皮膚筋炎では、診断の手がかりとなる特徴的な皮疹が現れます。
- ヘリオトロープ疹
まぶたが紫色〜赤紫色に腫れる皮疹。上まぶたに現れるのが一般的ですが、目頭や下瞼に発生することもあります。 - ゴットロン徴候/ゴットロン丘疹
手指関節の背面にできる赤紫色の発疹。 - Vネック徴候
胸のV字部分に広がる赤い発疹。 - ショール徴候
肩から背中上部にかけてのショール状の発疹。 - 爪囲の変化
爪の周りの毛細血管が拡張する。
内臓病変
- 間質性肺炎
患者の30~40%に合併し、咳や息切れの原因となります。特に抗MDA5抗体陽性例では急速進行性間質性肺炎という生命に関わる場合があります。 - 悪性腫瘍(がん)の合併
成人の皮膚筋炎、特に特定の抗体を持つ方では約15~30%程度で悪性腫瘍を合併することが報告されています。そのため診断時には、全身のがんの有無を調べる検査が行われます。 - 心筋障害
心筋炎や不整脈などの心臓の異常が報告されています。臨床的に問題となるケースは多くありませんが、検査で軽度の異常が見つかることがあります。
多発性筋炎・皮膚筋炎の診断法
診断は症状に加え、血液検査や自己抗体検査などを総合して行われます。
血液検査
筋肉が壊れると上昇するCK(クレアチンキナーゼ)が重要な指標です。CKは筋肉に含まれる酵素の一つで、筋肉の炎症や破壊によって血液中に漏れ出すことで数値が上昇します。そのため筋肉のダメージを評価する指標として用いられます。CK値の上昇は病気の活動性(病勢)を比較的よく反映しますが、皮膚筋炎の一部ではCKが正常のこともあります。
自己抗体検査
自己抗体は、病気のタイプを分類し、合併症や予後、治療への反応性を予測するために極めて重要な指標です。大きく分けて、この疾患にのみ見られる「筋炎特異的自己抗体(MSAs)」と、他の膠原病でも見られる「筋炎関連自己抗体(MAAs)」の2種類があります。
筋炎特異的自己抗体(MSAs)
- 抗ARS抗体
筋炎患者の中で比較的頻度が高い自己抗体の一つで、筋炎のほか、間質性肺炎、多関節炎、レイノー現象、機械工の手といった特徴的な症状を伴います。ステロイド治療への反応は良好ですが、再燃しやすい傾向があります。ARS抗体は8種類の抗体が報告されており、最も頻度が高いのは抗Jo-1抗体です。 - 抗MDA5抗体
東アジア人に比較的多く、筋肉の症状が乏しい無筋症性皮膚筋炎(ADM)でよく検出されます。急速進行性の間質性肺炎を合併する頻度が高く、生命予後に直結するため、早期からの強力な治療が必要です。 - 抗TIF1-γ抗体
成人の皮膚筋炎(DM)で検出された場合、悪性腫瘍(がん)合併のリスクが高いことが知られています。また、嚥下障害とも関連します。 - 抗NXP2抗体
皮膚筋炎(DM)で見られ、成人では悪性腫瘍との関連、小児(若年性皮膚筋炎)では皮膚石灰化と関連します。 - 抗SRP抗体、抗HMGCR抗体
炎症細胞が少ないのに筋肉が壊死する「免疫介在性壊死性ミオパチー(IMNM)」で見られます。CK値が非常に高くなることがあります。 - 抗Mi-2抗体
典型的な皮膚筋炎で見られ、ステロイド治療への反応が良好です。 - 抗SAE抗体
全身の紅斑や嚥下障害と関連することが報告されています。
筋炎関連自己抗体(MAAs)
他の膠原病との重複症候群(オーバーラップ)で見られることが多いタイプの抗体です。抗SS-A抗体、抗Ku抗体、抗U1RNP抗体などが含まれます。
西洋医学的治療法
治療の基本は、免疫の異常な反応を抑えることです。病状の強さや合併症の有無によって、治療の強度が変わります。
副腎皮質ステロイド
第一選択薬として広く使われます。免疫を抑制し、炎症を強力に抑える効果があります。初期治療ではプレドニゾロンを1日あたり体重1kgあたり0.5~1mg(通常30~60mg/日)という高用量からスタートし、筋力の回復や血液検査の数値を見ながら、再燃を防ぎつつ非常にゆっくりと時間をかけて減量していきます。
免疫抑制薬
ステロイドの効果が不十分な場合や、ステロイドの副作用を避けるために減量したい場合には、免疫抑制薬が併用されます。
- メトトレキサート:関節リウマチなどでも使われる免疫抑制薬
- タクロリムス:間質性肺炎合併例でよく用いられる
- シクロスポリン:重症例での併用療法に用いられる
- アザチオプリン:維持療法として用いられる
- ミコフェノール酸モフェチル:間質性肺炎合併例で用いられる
特に、抗MDA5抗体陽性の急速進行性間質性肺炎など重症例では、最初からステロイドと複数の免疫抑制薬を組み合わせる多剤併用療法が行われることもあります。
その他の治療
- 大量免疫グロブリン静注療法(IVIG)
ステロイドなどの標準的な治療で効果が不十分な場合や、重い嚥下障害がある場合に行われる治療で、保険適用もされています。 - 生物学的製剤
リツキシマブなどの使用が検討されることもあります。 - リハビリテーション
急性期の炎症が落ち着いたら、筋力回復と日常生活動作の改善を目的としたリハビリが非常に重要です。拘縮予防にも役立ちます。
注意点
- 悪性腫瘍の合併
特に皮膚筋炎では悪性腫瘍の合併率が高いため、治療中も定期的ながん検診が推奨されます。 - 感染症
免疫を抑える治療のため、感染症には常に注意が必要です。 - ステロイド副作用
糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、消化性潰瘍などに注意し、必要に応じて予防策を講じます。
漢方(中医学)的な対処法
西洋医学では「免疫異常」という部分的な現象と捉えますが、中医学では、「陰」と「陽」のバランスの崩れと捉えます。健康とは陰陽の調和が取れた状態であり、病気とはそのバランスが崩れた「陰陽失調」の状態です。多発性筋炎・皮膚筋炎も、この陰陽失調の観点によって治療します。
- 体を温め動かすエネルギーである「陽気」
- 体を潤し鎮静化させる「陰液」
多発性筋炎・皮膚筋炎は、何らかの原因でこのバランスが崩れることから始まります。慢性的なストレス、飲食の不摂生は陽気を昂らせ、過労や睡眠不足、加齢、病気の長期化は陰液を消耗させます。鎮静化させることができなくなった陽気がやがて「熱毒」となることで炎症や筋肉の破壊といった症状が現れると考えます。
自己免疫疾患では、症状が激しい「活動期」と落ち着いている「緩解期」に分け、治療方針を考える必要があります。
急性期(活動期)
筋肉の炎症や発熱、皮疹の赤みなどは、体内の「陽」が異常に亢進することで「熱毒」を持った状態と解釈します。この過剰な熱は、体を潤し冷ます役割を持つ「陰液」を激しく消耗させます。亢進した「陽」を冷まし(清熱)、消耗した「陰」を補う(養陰)ことが治療の基本です。
- 清熱解毒(陽を冷ます):石膏、知母、金銀花、連翹など
- 涼血活血(血の熱を冷ます):牡丹皮、生地黄、赤芍など
- 養陰生津(陰を補う):麦門冬、地黄など
緩解期(回復期)
長期間にわたる病気の消耗や、ステロイド剤の長期使用により、体の根本的な「陰」と「陽」の両方が弱ることがあります。特に生命活動の根源的なエネルギーである「腎」の働きが低下します。また、筋肉の萎縮や脱力は、胃腸機能である「脾胃」の働きが低下していると考えます。
弱った「陰」と「陽」の両方を補い、バランスを回復させます。特に「腎」を補うことが、再発を防ぎ、体力を回復する上で極めて重要です。
- 補腎陽(陽を補う):附子、肉桂、鹿茸など
- 滋腎陰(陰を補う):熟地黄、山薬、枸杞子、亀板など
- 健脾益気(脾の陽気を補う):黄耆、人参、白朮、茯苓など
その他
自己免疫疾患は、「陽」が亢進することから始まるため、その原因となる鬱熱や湿熱を取り除くことも重要です。また、漢方の中には免疫調節作用を持つ生薬もあり、西洋医学的治療と併用することで体調管理や回復をサポートできる可能性があります。
日常生活での注意点
陰陽のバランスを整えるためには以下のような生活習慣が必要です。
- 休息と睡眠(陰を養う)
夜更かしは「陰」を消耗します。特に午後11時から午前3時は「陰」が作られる大切な時間と言われ、この時間に深い睡眠をとることで消耗した陰液を回復させます。 - 気を巡らせる
ストレスは鬱熱を生み、炎症の元になります。ゆっくり休む時間を作り、趣味などで気分転換を心掛けましょう。 - 適度な運動
回復期には、無理のない範囲で体を動かすことで、停滞した「陽気」の巡りを良くするとともに、筋力の低下を防ぎます。ウォーキングやゆっくりとしたストレッチなどがお勧めです。 - 消化に良い食事
「脾」は消化器系の働きと深く関わります。脾の働きが弱まると、せっかく栄養を摂っても筋肉に届きません。胃に負担をかけない、温かくて消化の良い食事(お粥、スープ、煮込み料理など)を摂りましょう。 - 避けたい食材
冷たい飲食物、生もの、脂っこいもの、甘いものは脾の働きを弱め、「湿」や「熱」を生みやすいので控えめに。
まとめ
多発性筋炎・皮膚筋炎は、見える皮疹と見えない筋力低下、そして時に重篤な内臓病変を伴う、とてもデリケートな病気です。
治療においては、まずは早期診断・早期治療が何よりも大切です。特徴的な皮疹や筋力低下の自覚があれば、リウマチ科・膠原病内科や皮膚科を受診しましょう。
治療の中心はステロイドと免疫抑制薬ですが、近年は自己抗体に基づいた病型分類が進み、より個別化された治療が可能になってきています。
西洋医学的治療に加え、中医学的な考え方を生活に取り入れることで、体の内側からバランスを整え、治療の副作用を和らげ、病気に負けない体づくりをサポートすることができます。日常生活を不安なく過ごせる一助になれば幸いです。
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