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うつ病と見分けがつきにくい男性更年期

2024.11.30

最近、男性更年期が注目されるようになってきました。

大きなストレスを抱えていたわけでもないのに気分が優れず、うつ病と思い込んで精神科に通っても一向に改善することがない。このような症状に悩んでいる方がいらっしゃいます。男性ホルモンが低下してくる40代以降で、精神症状以外にも身体的な症状を伴う場合は、男性更年期の可能性があります。しかし、うつ病の治療をしても改善しなかった症状が漢方で改善することがあります。

今回は、そんな男性更年期について、西洋・東洋の両面から解説していきます。

1.男性更年期とは

男性更年期は、正式には加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)と呼ばれます。

注目されるようになったのはここ10年程度で、それまでは男性には更年期はないとされていました。一部の内分泌や泌尿器の先生が男性にも更年期が存在するのではないかと考えている程度で、それまでは世間であまり認知されていない症状でした。

男女の更年期の違いとして、女性は閉経前後5年ずつの計10年を更年期と呼びますが、男性更年期は期間が40-70歳と期間が長くなることが挙げられます。また、男女での症状の違いは、女性は女性ホルモンが減少することによる身体的なものが多く、火照りや動悸、イライラといった症状が現れやすいのに対し、男性は興奮性のホルモンであるテストステロンが少なくなることにより精神面に現れやすく、鬱っぽくなる、引っ込み思案、不安、孤独を感じやすいといった特徴があります。

2.男性更年期の検査方法

(1)血液検査

テストステロンを測ることで判定します。診断基準は、国際基準としては、血中のテストステロン値が300ng/ml以下、日本基準では遊離型テストステロン値が8.5pg/ml以下とされています。また前立腺がん検査のためにPSA測定も実施します。

(2)問診

男性更年期障害の診断に広く用いられている「AMSスコア」と呼ばれる質問票に記入し、症状や生活習慣などについて問診します。

(3)精巣の診察など

男性ホルモン低下の原因として精巣の萎縮などの異常が無いか診察します。他にも前立腺肥大や前立腺がんがないか調べるために超音波検査を行うことがあります。

このように診断結果や問診の結果を総合的に考慮して、男性更年期障害の有無を判断します。

3.男性更年期の主な症状

テストステロンの数値以外にも男性更年期にみられる症状があるかどうかを確認することは重要な判断材料になります。

男性更年期によって起こる症状には以下のようなものがあります。

◎身体的な特徴

・漠然とした体調不良や疲れ

・動悸や息切れ

・頭痛や腰痛、関節、手足、背中の痛み

・ひどい発汗や火照り

・ぐっすり眠ることができない

・筋力の低下

・めまい(頭がふらつくような)

◎精神症状

・イライラしやすく気難しくなる

・気分が沈む

・不安感や寂しさを感じる

・くよくよしやすい

・記憶力や集中力の低下(テレビを見れない、活字が読めない)

・好奇心が低下し外出しない

・不眠

◎性機能

・性欲の減退

・勃起力の減退

・異性に興味を持たなくなった

4.うつ病と男性更年期の違い

うつ病と男性更年期は似たような精神的な症状が現れるため、見分けることが難しいと言われています。

精神科の本によると、うつ病の診断基準というのは抗うつ薬が効く人で、効かないのは憂鬱な気分になっているだけ(メランコリー症候群)とされています。

つまり精神科の領域では、抗鬱薬が効かないということはセロトニン(精神のバランスを保ち、安心感やリラックス感を与える脳内神経伝達物質)などの脳の問題は起こっていないが、思い込みで不安になっていると捉えるということです。

そして、男性更年期はうつ病のような症状が出るわけですが、抗うつ薬を続けても改善することがありません。

そのため、うつ病と男性更年期を見分けるためには、精神面以外の身体的な症状を確認することが重要です。

5.男性更年期の治療方法

女性更年期ではホルモン補充療法が一般的ですが、男性更年期の場合はホルモン補充療法により癌、動悸や狭心症、前立腺肥大症などのリスクが高くなり、また筋肉量や体毛が増えるといった副作用がおきる可能性があるため注意が必要です。

自身でできる対策としては運動が有効です。男性ホルモンのテストステロンが減ると筋肉が付きづらくなりますが、運動した方がテストステロンが放出されるため、スクワットのような大きな筋肉を使う筋力トレーニングがお勧めです。気分が塞いで負荷の強い運動ができない場合は、ウォーキングのような軽い運動から始めましょう。

6. 中医学的な男性更年期の原因と対策

西洋医学のホルモン補充療法はリスクが大きく、他に有力な治療方法が見つかっていないため、男性更年期の治療には体質に合わせた漢方治療が有効です。

(1)腎虚

加齢に伴い男性ホルモンが減少するというのは、漢方では老化や生殖と関係が深い「腎」が弱っていることを意味します。この「腎」はさらに「腎陽」と「腎陰」という異なる2つの性質を持っており、男性更年期の症状や体質を判断することでどちらの問題なのか見分ける必要があります。

◎腎陽虚

テストステロンのような興奮性のあるホルモンというのは、中医学では基本的には腎陽にあたると考えます。腎陽が不足すると体が冷えやすい、足腰がだるい、やる気がでない、排尿回数が多い、夜間尿などの症状が見られるようになります。

このタイプは、腎陽を補う代表的な生薬である鹿茸が入った参馬補腎丸や参茸補血丸、霊鹿参のような漢方を使うことが重要です。

◎腎陰虚

男女問わず更年期の症状というのは、夕方に悪化しやすいという特徴がありますが、これは腎陰虚というタイプによく見られる特徴です。

中医学では「陰陽」という考え方があり、静的な「陰」と動的な「陽」がバランスを取りながら変化を繰り返しています。例えば1日の中では明け方から午後にかけては「陽」が盛んな時間で夕方から夜中にかけては「陰」が盛んになる時間です。本来、陰が盛んにならなければいけない時間に体の陰が不足すると様々な不調が現れます。

このタイプは、腎陰を補う六味丸や杞菊地黄丸、瓊玉膏、カキ肉エキス、亀板が使われた漢方を使って治療します。

(2)肝気鬱結

自律神経やホルモン分泌などの調節には、「肝」の疏泄機能が関わっていると考えられています。この調節機能が失調した状態を「肝気鬱結」と呼びます。イライラ、気分の落ち込みなどの精神面の不調を感じやすくなります。

こうしたタイプには加味逍遙散や加味帰脾湯、抑肝散、柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方を用います。

まとめ

昨今、注目されるようになってきたものの男性更年期はまだ理解されにくい症状です。また、あまり自分から打ち明けることを好まない男性特有の特徴もあって周りに気づかれにくいということも問題点です。できるだけ家族の方が早く気づいて声をかけてあげることも大切だと感じております。

そして、漢方治療が有効ではありますが、ネットの情報を信じて自己判断で服用するのは避けた方がいいかもしれません。これは男性更年期だけでなくうつ病の治療などでも言えることなのですが、元気がないからと補中益気湯や六君子湯のような補益剤(元気をつける薬)を中心に使うことは危険を伴います。気分が落ちた状態にこうした脾(胃腸)や肺の気を補う漢方を使うと時に突発的な衝動を招くことがあります。

男性更年期という病理機序を考えても、まずは腎陽を補うことが基本であり、脾(胃腸)や肺を補うのは後からになります。

この辺りは、非常に細やかな判断が必要になりますので、ぜひ専門家にご相談のうえで漢方薬治療をご検討くださいませ。

電話やオンラインによる相談も承っております。

薬草の森はくすい堂 権藤弘敏

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