
学校では新年度にはいりましたね。そうすると増えてくるのが、朝に起き上がることができずに学校を休んでしまう「起立性調節障害」のご相談です。
起立性調節障害は軽症を含めると中高生の約10%といわれており、中高生合計で約70万人と推定されています。起立性調節障害小児の2/3が不登校で、不登校児の約半数が起立性調節障害を合併していたというデータもあります。学校に行きたいと思っているのに通うことができない子が多いこの状況は、漢方屋としてどうにか力になりたいと常々考えています。
1.起立性調節障害の症状
医療系のサイトを参照すると起立性調節障害の典型的な症状は以下のようになっています。
①立ち眩み
②疲れやすい
③長時間立っていられない
このうち、代表的な症状は立ちくらみとされていますが、実際にお客様の症状を見ているとこの症状を訴えることは少なく、現代の症状とずれていると感じています。
今は②の疲れやすさを訴える子が多く、気力がわかないということが多いです。そして、詳しく話を聞かせていただくとお腹が空かない子がとても多い印象があります。これは病院などではあまり重視されていませんが、漢方的な視点ではとても重要な情報です。他には長時間立っていられないというよりも長時間座っていることができないこともよくあります。
2.起立性調節障害の4タイプ
(1)起立直後性低血圧
低いところから高いところに頭を持ち上げるように姿勢を変える際に、本当は心拍数が上がって血圧を上げなければなりませんが、それが起こらないタイプです。だから頭部に血液を送ることができずに貧血のように倒れてしまいます。あるいは脳の活動が低下してしまって、体の調子が悪いから起きることができません。目が覚めてもベッドの中で1時間ぐらいゴロゴロしてないと起き上がれない子に多く見られます。 (2)体位性頻脈症候群 少し体を動かすと心臓がドキドキしたり、息苦しく感じるタイプです。
起き上がることができず、時に心臓がドクドクして恐怖心を感じます。心臓というのは興奮性のホルモンを出すので、交感神経が刺激されてしまうと恐怖感が出てくることがあります。
年配の方にも多く見られますが、子供の場合は運動不足が背景にあることが多いです。ほとんどのお子さんが足を使うことが少なく、運動せずに一日中テレビゲームをしていて、椅子に座ったり、寝転がって過ごすという場合が多いようです。そうしていると体の動きに合わせて心拍数や血流を調整する力が落ちてしまいます。 (3)神経調節性失神 脳に血流を送ったり、体温を調節したりする神経の調節機能が落ちてしまうタイプです。
例えば体が冷えたままで温めることができなかったり、逆に1度運動したりして体の中に熱がこもった場合に熱を下げるための汗をかけないといった状態を引き起こします。身体の調整機能が落ちてしまうことで、気持ち悪さとか頭が痛い等といった症状も見られます。
真っ赤な顔をしたお子さんを見かけることがありますが、それはこういった体を調節する働きが鈍ることで体の中に熱がこもっている状態です。 (4)遷延性起立性低血圧 立ってしばらくすると血圧が急に下がってしまう状態で、基本的に低血圧のタイプです。
しかし、特徴があって普通にしている時に血圧を測ってもそこまで血圧が低くないのですが、5分か10分くらい立っていた状態から座って測ってもらうと、血圧が急に70ぐらいまで下がるようなお子さんがいらっしゃいます。
この場合は自律神経の問題と一緒に甲状腺機能低下症(橋本病)や副腎機能の低下が原因になっていることがあります。
3.控えたい栄養素
起立性調節障害においては、糖質の摂り過ぎが原因となっていることが多いです。
糖質を摂り過ぎると、血糖値スパイクと言われるような状態を招きます。一気に血糖値が上昇することで、それを下げるためにインスリンなどが大量に分泌されることになります。こうしてインスリンが過剰に分泌されると、ショック症状のような形となって脱力してしまうことがあります。そういう状態を一日に何度も作ってしまうと、自律神経のような体を調整するシステム自体がおかしくなり起立性調節障害が出てしまいます。 また、いつも高い血糖を保つというのは身体にとって負担が大きい状態です。そのため甘い物ばかり食べている状態が続くと、甘い物を食べてない時は血糖値をわざと下げることで、血糖値の上昇を待ち構えるようになります。こうして慢性低血糖症候群のような形となって体のだるさを訴えるようになります。 起床時は最も血糖値が低い時間帯です。その時に普通の人よりもさらに血糖値を下げようとするため、朝に起きることができないのです。
特にジュースのような清涼飲料水、甘いコーヒーや紅茶といった物は控える必要があります。液体は吸収が早いために血糖値の急上昇を招きやすいからです。
他にも砂糖が多く含まれている小麦粉を使ったものよりは、お米をしっかりよく噛んで食べることをお勧めしています。
4.積極的に摂りたい栄養素
脳というのはブドウ糖のような単純な栄養素だけでなく、神経伝達物質を作り出すためにミネラルを大量に必要とします。甘い物に気をつけるだけでなく、バランスよく食事で補う必要があります。
ミネラルというのは互いに吸収や働きに影響を与え合うものがあります。よくサプリでミネラル単体で摂り入れている方もいますが、自然に近い形で複合的に摂らなければ十分な効果は見込めません。 魚介類や野菜、果物などを食べることが大切ですが、最近は果物を食べる人が減ったというのも起立性調節障害が増える状態を招いているように思えてなりません。 親御さんが仕事で忙しく、バランスが取れた食事を準備することが難しい場合は、自然に近い形でたくさんのミネラルが入った健康食品を使っていただくことがありますが、やはり調子が良くなるお子さんが多いことからも、ミネラルなどの栄養素が不足している子が多いことは間違いないと感じています。5.起立性調節障害を中医学的に考える
起立性調節障害というのは、中医学的に考えると昇降失調という状態です。
昇降失調というのは、清気が昇ることができず、濁が降りていかないということを意味します。食べ物から作られた必要な気である清気というのは上に昇る性質があります。地面が温かくなると水蒸気のように上がっていくようなイメージです。そして体に取って要らない物である濁は重力に従って下がっていかなければなりません。シーソーのように濁が下がると清気が上がって頭がすっきり働くというような関係です。 起立性調節障害というのは昇降、つまり体に必要な清気が昇って、体に不必要な濁が下がるという2つのバランスがおかしくなる状態で、頭の方に気が巡らないために意識をしっかりさせることができません。6.起立性調節障害に用いる漢方
昇降失調というアンバランスを整えるには以下のような状態があるかを確認しながら漢方薬を用います。
(1)気の乱れ 自律神経失調のような症状は気が乱れている状態だと考えます。 人の体は38兆もの細胞がそれぞれ連動しながら働いていて、気というのはこれら全ての細胞の活動を調和するように働いています。 漢方には気つけ薬という分類のものがありますが、気つけというのはこの乱れた気の流れを元に戻すことで、芳香開竅薬という分類の生薬が入った漢方を使います。他にも柴胡という生薬が入った漢方をよく使いますが、たくさんの種類があるので、その中でもお子さんの状態に合ったものを選んで用います。 (2)排便や排尿の乱れ 清気が昇ってしっかり働いているかどうかは、シーソーの関係である濁が降りていっていることが大切です。 そのため排便や排尿によって濁が体から排出されているかのチェックが欠かせません。便秘をしていないか、排尿回数や量に問題はないかを確認しますが、それらが乱れているとしてもその原因は様々です。 例えば、腸を刺激する下剤が入った漢方を使うことがありますが、最終的には根本原因を考えて下剤がなくても排便ができるように整えていきます。 (3)脾虚 清気と濁の分別をしているのは脾(腸)の働きです。 特に小腸は清濁を分別する働きがあるとされ、必要な栄養は体内に回され、水分は膀胱に、残りは大腸へ送ります。 こうした脾の働きが悪い時というのは空腹感を感じることがなくなります。特に朝のうちにお腹が減らないというのは、夜にリラックスしている状態(副交感神経)から朝方から活発な状態(交感神経)へのスイッチが上手くいっていないことを意味し、お腹の働きが弱い脾虚という状態です。 冷たい物を摂らないことが特に大事で、口にしている物を確認しながら、脾を元気にする漢方薬を選びます。 (4)腎虚 現代医学的にいうと腎臓や副腎が弱い状態のことです。 腎虚の特徴としては、幼いころから発達が遅い、初潮が早い、もしくは遅い等の症状がありますが、おねしょが小学校高学年まで続く子は典型的な腎虚だと考えます。 生まれつきの腎が弱い場合でも、補腎薬という分類の漢方薬で補うことができます。7.まとめ
ここでは書ききれていない大事なことがまだまだあります。例えばADHDや自閉症のような発達障害が絡んでいれば、上記の様なタイプとは違った見方が必要です。
ご自身でできる対策としては、食事(温かい物をバランスよく食べ、特に糖質の摂り過ぎに注意する)、睡眠(遅くとも日を跨がないように寝る)、運動(無理がない範囲で足を使った運動)の3点に注意するようにされてみてください。 なかなか自分では気づけないこともありますので、気になる方は一度相談することをお勧めします。
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