秋になると増えるのが不安感の相談です。
秋というのは日照時間が短くなり、気温差も大きく、体も冬に向けて準備をしている時期です。そのためこの時期は物悲しく感じやすい季節ですので、普段から不安や恐怖を感じやすい方は悪化しやすくなります。今年も10月末頃から不安感を訴えられる方が増えています。
こうした不安というのは誰でも大なり小なり感じるものですが、過剰に不安を感じたり、はっきりとした理由もなく漠然と感じる場合は不安神経症(全般性不安障害)とされます。不安神経症とまでは診断されなくとも、不安を感じやすい人は参考になると思いますので、ぜひご一読ください。
1.不安神経症とは
不安神経症は、以前はストレスなどの心理的な原因による心の病気だと考えられてきましたが、昨今では脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることが原因と考える説が有力になっています。
ただ要因はそれ以外にも考えられ、脳機能の障害、ストレス、身体的な疾患、社会的要因
などが複雑に関わっているとされます。
不安神経症には下記のような症状があります。
・漠然とした不安がある
・神経が敏感になった感じがする
・常に緊張や焦りを感じてします
・いつまでも緊張が続く
・気持ちが落ち着かない
・集中することができなくなった
・頭の中で同じことをぐるぐると考えてしまう
・不安になると動悸や息切れを感じる
・ちょっとしたことでも驚きやすい
・夜になると不安に感じてしまい眠れない
・人の視線や話していることが異常に気になる
2.不安神経症の西洋的治療
西洋医学では、不安神経症の治療には、精神療法(認知行動療法)、抗不安薬や抗うつ薬
などが用いられます。
(1)認知行動療法
精神療法的なアプローチにより不安をコントロールする療法です。認知というのは、ものの受け取り方や考え方という意味です。ストレスを感じると悲観的に考えがちになり、問題を過剰に捉えてしまうことがありますが、認知療法では、そうした考え方のバランスを取ることでストレスに上手に対応できる心の状態をつくることで治療していきます。
薬物療法と同じくらい効果があると同時に、効果の持続時間が長いという報告もあり、海
外では盛んに用いられている治療法です。
(2)薬物治療
不安神経症は、うつ病と同様にセロトニンなどの神経伝達物質が関連していると考えられており、主に抗不安薬や抗うつ薬などが使われます。こうした薬には多くの種類があり副作
用が生じることもあるため、個人の体質に合った薬を適切な量だけ服用することが大切で
す。
3.不安感の漢方的対策
お客様の相談を受けて感じるのは、不安感は体のエネルギーや栄養の不足によって発生しやすく、逆にエネルギーや栄養が過剰な状態ではあまり見られません。不安感を感じる原因を中医学的に考えた場合、こうした不足が原因の「虚証」をメインに考え、それに気の滞りなどがあるかを見分けることが大切です。
細かくタイプ別に分けると以下のようになります。 ◎心血虚
脳の栄養である血液が不足する場合、神経伝達物質を作り出すことができずに不安感を感じる原因になります。
中医学ではこの脳に供給される血液不足のことを心血虚と呼び、他に動悸、不眠・夢が多い、健忘、立ち眩み、くよくよ考えすぎる、顔色が白く艶がない、唇や舌の色が淡いといった症状がみられます。
漢方では、心血を補う帰脾湯(イスクラ心脾顆粒)、加味帰脾湯などを用います。 ◎腎虚
五臓の1つである「腎」は恐れと関係が深いと考えられています。長い病気や過度の疲労、生まれ持った体質により、体の根本的なエネルギーを溜めている「腎」が弱ると不安感や恐怖を感じやすくなります。
現代的に言えばホルモンバランスと関りが深い「腎」が弱ることで、腰や膝がだるい、元気がない、寝汗、不眠、焦燥感、尿トラブル、舌が赤く苔が少ないなどの症状がみられます。
漢方では、腎を補う六味丸や杞菊地黄丸、鹿茸などの動物薬が入った物などを用います。 ◎胆虚
中医学では六腑の1つである「胆」は決断を主るとされ、胆が強ければ精神的な刺激を受けて、すぐ回復することができますが、胆が弱ると不安感を感じる原因となります。
胆虚タイプは、迷っていつまでも決断ができない、何かに怯えるように恐怖を感じる、不眠・夢が多い、舌の苔が厚いといった特徴がみられます。
漢方では、胆の働きを正常化させる温胆湯などを用います。 ◎ 肝鬱気滞
気の巡りを調節する「肝」の働きが失調することで不安の原因となります。肝は体の様々な機能を調節する働きを担っているため、ストレスで肝の負担が増えることで、自律神経やホルモン分泌が乱れ、不安を感じやすくなります。
緊張、イライラ、肩こり、頭痛、喉のつかえ、便秘や下痢、お腹や脇の張り、月経周期の乱れなどの身体症状があらわれます。
漢方では、鬱滞した気を巡らせ自律神経の乱れを整える逍遥散や加味逍遥散、香蘇散、半夏厚朴湯などを用います。 他にもエゾウコギと呼ばれる生薬もストレスから来る不安感に用いられます。
まとめ
不安感の漢方治療は体質に合わせて処方を選ぶことが大切です。ここに記載されているのは実際に使用する漢方のごく一部になります。また、細かな体質や症状の違いにより、どの漢方を使うかは異なりますので、お悩みの方はぜひ漢方相談をご検討ください。
電話相談やオンライン相談も承っております。
薬草の森はくすい堂 権藤