西洋医学での診断
咳は、日常の中でも良く見られる症状のひとつです。しかし、長く続いたり、激しい症状が見られるときなどには、何らかの疾患から咳が出ていることも考えられますので、医師の診察を受けましょう。
咳は、気道(鼻・口から気管支の一番奥の肺胞まで)や肺を清潔に保つための身体の防御機能のひとつで、主に気道が刺激されることで起こります。きっかけとしては、異物(ほこりなど)や刺激物(煙・ガスなど)・分泌物(粘液)・炎症などによる刺激があげられます。
○乾性咳嗽(かんせいがいそう)
コンコンという乾いた感じのいわゆる「から咳」です。気道の疾患(特に鼻咽喉頭炎・扁桃炎・扁桃腺肥大など、上気道疾患によるもの)に多く見られます。鎮咳薬(咳止め)は、このタイプの咳に使います。
○湿性咳嗽(しっせいがいそう)
ゼイゼイ・ゴホンゴホンといった感じの「痰が出る咳」です。気管支炎・気管支拡張症・肺うっ血・肺水腫など、気管支・肺疾患によるものが多く見られます。
このタイプの咳は、鎮咳薬(咳止め)で抑えると、細菌やウイルスなどの入った痰が出なくなり、窒息や細菌感染を起こして悪化することもあるため、咳を抑えるのではなく、去痰薬などで痰を出しやすくすることが大切です。
まずは医師に相談しましょう。
咳の原因
■物理的な刺激によるもの
- ほこりや塵を吸い込む
- タバコの煙、排気ガスなどを吸い込む
- 乾燥した空気、冷たい空気を吸う
- 気管内に異物が入る(飴など)
■何らかの疾患が原因となっているもの
- 風邪
- 慢性気管支炎
- 好酸球性気管支炎
- 気管支喘息
- 咳喘息
- 肺炎
- 間質性肺炎
- 肺化膿症
- 肺結核
- 気管支拡張症
- 自然気胸
- 慢性閉塞性肺疾患
- 肺ガン
- 咽頭炎
- 胸膜炎
- アレルギー性鼻炎
- 副鼻腔炎
- 後鼻漏
- 胃食道逆流症
- 心不全
- 心因性
- 薬の影響 など
咳の原因
何らかの疾患から咳が出ている場合は、まずその疾患を治療していきます。激しい咳は非常に体力を消耗しますし、咳で眠れないなど日常生活に支障をきたすようであれば、咳を止める必要もありますが、前述したように、簡単に鎮咳薬を使えないこともあるため、咳が何日か続いたり激しいようであれば、まずは医師に相談しましょう。
また、空咳が長く続くうちに痰の出る咳に変わることもありますし、普段から咳の出やすい高齢者の場合は、ちょっとした風邪から肺炎につながることもあるため、注意が必要です。
○鎮咳薬
分泌物を伴わない乾性咳嗽(空咳)や体力を消耗する激しい咳などに用います。
また、鎮咳薬と一緒に去痰薬が使われることがありますが、これは粘液の分泌をある程度促して炎症を起こした粘膜を保護するためです。 咳の中枢を抑制したり、咳の反射経路を遮断するなどして咳を抑えます。
- 麻薬性鎮咳薬(リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデインなど)
- 非麻薬性鎮咳薬(ノスカピン(商品名ナルコチン)、デキストロメトルファン(メジコン)、ビベンズ酸チペピジン(アスベリン)、リン酸ジメモルファン(アストミン)など)
○去痰薬
湿性咳嗽の場合には、咳を抑えてしまうと分泌物が溜まるなどして窒息や細菌感染の原因となり症状が悪化することにもなりかねないため、咳を抑えるのではなく、去痰薬などを使って痰を出すことを優先させます。
気道粘膜の分泌を増やして痰を薄めることにより、気道の線毛の働きを高めて、痰を出しやすくします。
塩酸ブロムヘキシン(商品名ビソルボン)、塩酸アンブロキソール(ムコソルバン)、カルボシステイン(ムコダイン)など
○気管支拡張薬
気道の緊張を和らげ、狭くなってしまった気道を広げることで痰を出しやすくして咳を抑えます。
塩酸プロテカロール(商品名メプチン)、塩酸クレンブテロール(スピロペント)、テオフィリン(テオドール・テオロング)など
漢方での診断
咳は日常の中でもよく見られる症状ですが、これが続くのは大変辛いものです。また、西洋的な治療では例えば空咳には鎮咳薬、痰が多ければ去痰薬を処方されることも多いのですが、特に原因となる疾患がなければ、なぜ咳が出てきたのかという根本を治療していくものではないため繰り返しやすく、その度に薬で抑えるという方も多く見受けられます。もちろん、日常生活の中にも原因はあり予防は大切ですが、風邪を引きやすくその度に咳が出る、繰り返さないようにしていきたい、という方には漢方も良いのではないでしょうか。
咳と肺について
咳は、肺が何らかの影響を受けるか、肺自体のバランスの崩れから起こると考えます。
ここでいう肺は、漢方でいう五臓の中の肺で、呼吸と関わり、気道や肺をきれいに保つための働きをする(咳)など西洋的な考えと重なるところもありますが、水分を全身にふりまいたり汗を調節する働きもあり、また外からの邪気(身体に悪影響を与える因子)を防ぐ働きなども肺が関係しています。(抵抗力の有無や汗の調節力は肺の強さを表します)
したがって、肺が弱いと邪気を受けやすく(風邪を引きやすい)、肺の潤いが足りなくなると咳の他にも粘膜や肌が乾燥しやすくなるなどの症状が現れてきます。
次に、咳の原因として考えられるいくつかのタイプをご紹介します。
外から影響を受ける場合
消化吸収は 「胃」「脾」が協力しあって行い、「肝」がその調節に関与しています。
○ゾクゾクする風邪を引いた場合(風寒の邪によるもの)
<症状>
- 急に咳が出る
- 声が重く低い
- 痰は薄く色は白い
- 薄い鼻水が出る
- 咳は夜よりも昼の方が多い
- のどがかゆくなると咳が出る
- 頭痛、悪寒発熱
- だるい
- 汗が出ない など
<原因>
- 寒さ
- 防寒対策をしていない、冬
- 冷たい水に浸かる
- 冷えやすい体質(寒邪をひきつけやすい) など
<漢方>
発汗などで邪を取り除くものなどを使う
○のどが痛くなる風邪を引いた場合(風熱の邪によるもの)
<症状>
- 急に症状が出る
- 頻繁に激しく咳をする
- 声がかれる
- 痰がすっきり出ない
- 痰が黄色くて粘る
- 黄色い鼻水が出る
- のどが渇く
- 頭痛
- だるい
- 舌苔が黄色い
- 舌が赤い
- 咳は夜よりも昼の方が多い など
<原因>
- 暖房、暑さ、春
- 熱を持ちやすい体質(陰虚など)
<漢方>
熱を冷まして邪を取り除くものなどを使う
○乾燥の影響によるもの(風燥の邪によるもの、風熱と合わさった症状が出やすい)
<症状>
- 乾いた咳(空咳)
- のどの痛み
- 唇や鼻の乾燥
- 痰は出ないあるいは少なく粘る
- 痰を出しにくい
- 口の渇き など
<原因>
- 空気の乾燥、秋
- 潤いが足りない体質(陰虚) など
<漢方>
邪を追い払ったり、肺を潤すものを使う。
特に元々肺の陰(潤すもの)が足りない場合(肺陰虚)は、風熱や風燥の邪気を受けやすいため、注意が必要です。
臓腑の機能がうまく働かないことによる場合(内面の原因によるもの)
○余分な水分が溜まっている場合(代謝しきれなかった余分な水分が肺の機能を邪魔する
<症状>
- 重く濁った咳をする
- 痰が多い
- 朝方急に咳き込む
- もたれる、食欲がでない
- だるい
- 便が柔らかい、あるいはベタッとしやすい
- 舌苔がベタッとついている
- 脂っこいものや味の濃いもの、甘いもの、生もの、冷たいものを摂ると悪化しやすい など
<原因>
- 水分代謝が悪い、胃腸が弱い(脾虚)
- 味の濃いもの、脂っこいもの、甘いものの摂りすぎ
- 食べすぎ、飲みすぎ など
<漢方>
余分な水分を取り除いたり、水分代謝を助けるものなどを使う。
また、余分な水分がなかなか取れずに慢性化して脾が弱ると、症状が長引きやすくなるため、早めのケアが大切です。
○余分な水分と熱がこもっている場合(上記のタイプに熱が加わったもの)
<症状>
- 咳が激しい
- 咳に痛みを伴う
- のどで痰の音(ゴロゴロ)がする
- 痰が多い
- 痰が黄色い
- 痰が粘って出しにくい
- 痰が生臭い
- 脇が張る
- 口が乾く
- 舌苔が黄色くベッタリしている
- 舌が赤い
- 朝方急に咳き込む など
<原因>
- 水分代謝が悪い
- 味の濃いもの、脂っこいもの・甘いものの摂りすぎ
- 食べすぎ、飲みすぎ
- 熱がこもりやすい体質 など
<漢方>
熱を冷まして余分な水分を取り除いたり、水分代謝を助けるものなどを使う
○ストレスなどによるもの(ストレスが溜まって気がスムーズに流れず熱が発生してそれが肺の機能を邪魔する場合)
<症状>
- ストレスが溜まると咳がでる
- 顔を赤くして咳をする
- 痰が絡んだような感じはあるが出にくい
- 痰の量は少なくて粘る
- 脇が張っていたい
- 咳に痛みを伴う
- 口が苦い
- イライラして怒りっぽい
- 目が充血しやすい
- 舌が赤い など
<原因>
ストレス、イライラ、怒りなどの感情的な興奮や緊張など
<漢方>
熱を冷まして気の流れ(肝気)をスムーズにするためのものなどを使う。
ストレスなどにより気の流れが滞りがちな方は、生活の中でゆとりを持つことも必要ですが、気がうまく流れないとイライラしたりストレスを溜めやすくなるなど悪循環にもなりやすいため、漢方で気の流れを手助けしていく。
○肺の潤いが足りない場合(肺陰虚)
<症状>
- 空咳
- 咳の音は弱い
- 痰は少なく、白く粘る
- 徐々に声がかれる
- 口やのどが渇く
- 寝汗をかく
- 午後から微熱がでる
- 手足がほてる
- ソワソワする
- やせる
- 舌が赤い
- 長引きやすい
- 午後や夕方から咳が悪化しやすい など
<原因>
- 慢性病
- 水分不足(汗のかきすぎなど)
- 寝不足が続いている
- 不摂生(生活のリズム・食事のリズムとバランスの崩れなど)
<漢方>
肺を潤してあげるようなものを使う。
このタイプは燥邪の影響を受けやすく、これによってさらに肺陰が少なくなり慢性化しやすくなるため、予防とケアが大切です。
○肺の気(エネルギー)が足りない場合(肺気虚)
<症状>
- 普段から咳がでやすい
- 透明で薄い痰がでる
- 息切れしやすい
- 疲れやすい
- 動くと症状が悪化する
- 汗をかきやすい
- 風邪を引きやすい
- 寒けがしやすい
- 声に力がない など
<原因>
- 栄養不足(胃腸が弱い場合は、必要な水分や栄養を肺に送れない)
- 慢性病
- 肺の病気を患っている など
<漢方>
肺を補って元気にしてあげるようなものを使う。また、脾が弱いために肺の元気がないことも多く見られるため、脾を補うと良いこともしばしばあります。
咳は肺の疾患によるものですが、五臓の中の脾・肝・腎も関係してきます。したがって漢方では、なぜ咳が出たのかを見て、体質的な要因があればそこを改善し、症状を繰り返さないように手助けしていきます。
他の臓器の咳との関係
■脾:消化器系のイメージ
水分代謝と関係しているため、脾が弱ると余分な水分が溜まりやすくなります。それが痰となって肺の気の流れを邪魔すると咳の原因となります。胃腸の弱い方には、痰が出やすいなどの症状もよく見られます。
ちなみに、漢方では「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」と言われています。
※4、5のタイプが脾と関係しています。
■肝:気の流れをコントロール
肝気はスムーズな流れを好み、常に流れているため、ストレスが溜まって気の流れが滞ると、熱を持ちやすくなります。それが肺に影響すると水分が濃縮されて痰となり、咳がでます。また、感情のコントロールとも関係しています。
※6のタイプと関係しています。
■腎:各臓器の陰陽の本(ほん)
生命力の源で、身体の根本的な陰(機能するのに必要な物質的なもの)と陽(エネルギー・機能)がここにあります。したがって、腎が弱ると全身に影響がでてきます。
逆に肺の病気が慢性化すると、次第に腎にもその影響が出るようになってきます。
また、呼吸は主に肺が行っていますが、腎の「気を納める働き」によって息を深く吸うことができます。
したがって、腎のこの働きが弱くなると、呼吸が浅くなってしまいます。これらの状態は、喘息の方や高齢者によく見られます。腎が弱ると、かなり慢性化した状態か体力が落ちた状態でもあるため、予防と早めのケアが大切です。