ヘルニアとは、体の組織が本来ある場所からはみだした状態を言います。
ここでは主に、腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアについて解説していきます。
椎間板ヘルニアとは、老化によって髄核の水分が減ったり、線維輪が衰えるなどしてその負荷に耐えられなくなると、髄核が線維輪を押しやったり、線維輪を破って飛び出して、神経根を圧迫した状態のことをいいます。
髄核は、どの方向にも飛び出す可能性がありますが、後ろ側(背中側)に出ることが多く、そこは脊柱管から出ていく神経があるため、これが圧迫されるとその神経が関わっている場所に症状が出てきます。
(例えば腰椎の脊柱管からでた神経根は、数本が合流して坐骨神経となっています。したがって、この神経根が圧迫されると脚の痛みやしびれが出ます。)
保存療法と手術という方法がありますが、痛みで日常生活ができないなど特別な理由が無い限り、保存療法が優先されます。ここでは、保存療法についてご紹介します。
ヘルニアの約7割は、1ヵ月で日常生活に差し支えない位には軽くなるようです。
飛び出したヘルニアが椎間板の中に戻ることはありませんが、圧迫された神経が慣れてきて痛みが軽減したり、水分が減ってヘルニアが小さくなったり、周囲の血管か出てくる血液の成分によって分解されて自然に吸収されるなど、数年で神経根の圧迫はなくなることが多いと考えられています。
また、誰でも年とともに椎間板は弱くなっていきますし、腰椎の変性や障害があっても必ず症状がでるとも限りません。
したがって重要なことは、いかに予防し負担を減らすかということです。毎日の積み重ねを大切にしていきましょう。
軽い場合は、首や肩のこり、痛み、頭痛などの症状がみられますが、神経根(脊髄から手の方へ伸びていく神経)が圧迫されている場合、首や肩甲骨の内側の痛み、肩から手指にかけてのしびれ、筋力低下などがみられます。
また、髄核が脊柱管の真ん中に飛び出て脊髄を圧迫すると、手足のしびれ、指先の細かな作業ができない(ボタンをかけにくい、お箸を持ちにくい、字を書きづらいなど)、歩く時に足に力が入らない(特に階段の下り)、排尿や排便の異常(膀胱直腸障害)などが現れます。
最後にしびれや痛みは、椎間板ヘルニア以外にもさまざまな原因から起こります。したがって、2~3日しても症状が軽減されない場合や、安静にしていても痛むような場合は、医師の診察を受けましょう。
漢方では、体を5つの臓器(五臓)にわけてみていく方法がありますが、腰はその中の腎(じん)と関係すると考えます。
腎は老化とも深いつながりがあり、骨が丈夫、髪は黒くてつややか、若々しい、スタミナがあるなどの場合は、腎が充実しており、骨がもろい、歯が弱い(ぬける)、白髪、疲れやすい、精力減退、物忘れしやすいなど、年をとると出てくる症状がある場合は、腎が弱った状態=腎虚(じんきょ)と言えます。
椎間板ヘルニアも、腰に症状が出やすく、腎が弱いとなりやすいと考えます。
また、漢方には「不通則痛(ふつうそくつう)」という言葉があります。これは、流れるべき所が詰まってしまうと痛みが出るという意味です。
西洋的な考え方でも、椎間板ヘルニアによる痛みやしびれは、神経根が圧迫されたために血液不足となり、エネルギーや栄養が不足して起こると考えます。
このことは漢方的にも、「気」や「血」が行き届かない状態として捉えています。
漢方では、なぜそのようになってしまったのか、環境(寒さ・湿度など)、生活スタイル、精神面なども考慮しながら、身体全体のバランスが乱れた結果として、椎間
腎が弱ると骨が弱くなってきます。また椎間板の水分が減って弱くなった状態は、腎の陰(潤す働きがあります)が不足した状態(腎陰虚(じんいんきょ))と関係があります。腎は次のような状態や積み重ねで弱くなってきます。
腎を補うものを使います。
陽虚に偏る場合は陽を補い、陰虚に偏る場合は陰を補うなどして、陰陽のバランスをとっていきます。
ただし胃腸が弱く、毎日の生活の中で必要なものを補えないような場合は、まずは消化機能を高めて状態をみながら調節していく必要があります。
寒邪や湿邪の影響を受けると、腰や足の気血の流れが邪魔されて痛みやしびれがでてきます。
水分代謝を手助けしたり、温めて経脈(気血の通り道)の流れを良くするようなものを使います。
また、腎の陽が足りないために温める力が弱かったり、胃腸の機能が低下して水分をうまく代謝できないなどの場合には、寒邪や湿邪を受けやすいため、状態をみながら弱い所を補っていく必要もあります。
気血の流れを手助けするものを使います。
ただし、もともと血をめぐらせる力がない場合は必要なものを補い、余分なものが邪魔をして滞りの原因となっている場合には、それを取り除くなど状態を確認しながら使っていきます。