お腹の張りや腹痛、下痢や便秘を繰り返し、「検査では異常なし」と言われたのに不調が続いている。そんなお悩みを抱えている方は少なくありません。
それはもしかすると、過敏性腸症候群(IBS)かもしれません。
過敏性腸症候群は、ストレスや自律神経の乱れとも深く関わり、日常生活の質(QOL)を大きく下げてしまう疾患です。
本記事では、日本消化器病学会が編纂した「過敏性腸症候群(IBS)診療ガイドライン2020」をもとに、原因・診断・治療の考え方を分かりやすく解説するとともに、漢方(中医学)的な視点からみた体質別の考え方や対策についても紹介していきます。
過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群(IBS)は、腫瘍や炎症などの目に見える異常がないにもかかわらず、腹痛や腹部不快感に伴って下痢や便秘が続く機能性の疾患です。
複雑な病態の原因
IBSの病態は非常に複雑で、単一の原因で起こるわけではありません。ガイドラインでは、以下のような複数の要因が関与していることが示唆されています。
- ストレスと心理的要因
ストレスはIBSの大きな悪化要因です。また、不安や抑うつといった心理的要因が病態に関与していることも指摘されています。 - 脳腸相関
腸と脳は密接に連絡を取り合っており、神経伝達物質や内分泌物質がこの情報のやり取りを制御しています。このバランスが崩れることで、腸の過敏性が増すとされています。 - 腸内環境の乱れ
近年では、腸内細菌叢の変化や、腸粘膜の透過性亢進(バリア機能の低下)、微小な炎症が関わっていることが注目されています。 - 感染性腸炎後の発症
感染性腸炎をきっかけに、その後IBSを発症するケース(PI-IBS)があることも判明しています。
4つの分類
IBSは、便の形状によって大きく4つのタイプに分類されます。
- IBS-D(下痢型)
- IBS-C(便秘型)
- IBS-M(混合型:下痢と便秘を繰り返す)
- IBS-U(分類不能型)
これらの分類によって、選択される治療法も異なります。
過敏性腸症候群の診断方法
IBSの診断において最も重要なのは、まず他の重大な疾患(大腸がんや炎症性腸疾患など)ではないことを確認することです。
Rome IV 基準の活用
世界的に標準的な診断基準として「Rome IV 基準」が用いられています。「Rome IV 基準」とは、画像検査や血液検査だけでは分からない“体のサイン”を整理して診断するための国際的なルールのことで、腹痛の頻度や便の形状の変化などを点数化・基準化して評価します。
大腸内視鏡検査は必須か?
「診断のために必ず大腸カメラをしなければならないのか」という点は多くの方が気になるポイントです。ガイドラインでは、大腸内視鏡検査が必須かどうか、また内視鏡以外の臨床検査(血液検査など)が鑑別診断(他の病気との見分け)にどの程度有用であるかが検討されています。
一般的に、血便がある、急激な体重減少がある、あるいは高齢での発症といった場合には、内視鏡検査による精密な確認が強く推奨されます。
過敏性腸症候群の治療法
IBSの治療は、症状の重症度やタイプに合わせて段階的に進められます。
生活習慣と食事の改善
まず基本となるのが、食事指導・食事療法と生活習慣の変更です。
- 食事
食物繊維の摂取や、特定の糖質を制限する食事療法(低FODMAP食など)の有用性が検討されています。 - 生活習慣
規則正しい生活や睡眠、適度な運動が症状の緩和に寄与することがあります。
薬物療法
症状が改善しない場合、症状のタイプ(下痢型か便秘型か)に合わせて以下のような薬剤が検討されます。
- 共通して用いられる薬
消化管運動機能調節薬、高分子重合体(水分を調節する薬)、プロバイオティクス(整腸剤)など。 - 下痢型(IBS-D)へのアプローチ
5-HT3拮抗薬(腸の動きを抑える)や止痢薬が有効です。 - 便秘型(IBS-C)へのアプローチ
粘膜上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター阻害薬、5-HT4刺激薬、非刺激性下剤などが選択肢となります。 - その他
腹痛が強い場合には抗コリン薬、精神的な要因が強い場合には抗うつ薬や抗不安薬が処方されることもあります。
心理療法と漢方薬
身体的なアプローチだけでなく、心理療法(認知行動療法など)や漢方薬の有用性もガイドラインで認められています。
漢方(中医学)的な原因と対策
西洋医学では、IBSを「機能性の疾患」と捉え、症状の分類とそれに合わせた薬物療法を中心にアプローチします。
一方、漢方(中医学)では、IBSの症状は単に腸だけの問題ではなく、全身のバランスの乱れや、臓腑の失調が根本原因にあると考えます。 中医学の診断では、患者さんの体質や現れている症状のパターン(「証(しょう)」)を見極め、それに合わせて漢方薬を選択します。中医学から見たIBSの主な原因と病態
中医学では、IBSの主な病態は以下のように捉えられます。
①肝脾不和(かんぴふわ)
気の流れをコントロールする「肝」がストレスなどで失調し、やがて脾の働きを阻害する「肝脾不和」という状態になります。
ストレスをきっかけに下痢や軟便、倦怠感、食欲不振といった症状が現れます。
②脾胃虚弱(ひいきょじゃく)
生まれつきの体質や慢性的な不摂生により、「脾」と「胃」の消化機能そのものが虚弱な状態です。少しのストレスや飲食の不摂生で下痢をしやすく、疲れやすく、食欲が不安定な方が該当します。
③脾陽虚(ひようきょ)
「脾」の虚弱だけでなく、温める働きが弱い状態を脾陽虚といいます。冷えによって過敏性腸症候群の症状を引き起こしやすくなります。
④脾腎陽虚(ひじんようきょ)
脾陽虚の状態だけでなく、生命の根源的なエネルギーである「腎」の温める力も同時に不足した状態を脾腎陽虚と呼びます。
特に朝方や冷えると起こる下痢、腰や手足の冷え、強い倦怠感が特徴です。
⑤大腸湿熱(だいちょうしつねつ)
脂っこいものや辛いもの、アルコールの過剰摂取により、腸に「湿(余分な水分・汚れ)」と「熱」がこもった状態です。下痢型のIBSで、腹痛を伴う急な便意、粘液が混じる、排便後もすっきりしない(残便感)などの症状が見られます。
IBSに用いる漢方薬例
桂枝加芍薬湯、小建中湯・・・温めながら緊張をほぐす漢方です。
開気丸、四逆散・・・肝の働きを整える漢方です。
香砂六君子湯、参苓白朮散・・・脾気の働きを上げる漢方です。
人参湯・・・脾の陽気を強くする漢方です。
附子理中湯・・・脾と腎の陽気をあげる漢方です。
半夏瀉心湯、葛根黄連黄芩湯・・・湿熱を取り除く漢方です。
場合によっては、体質に合わせてこれらの処方を組み合わせて用います。
生活養生のポイント
漢方治療では、薬を服用するだけでなく、以下のような生活での養生が非常に重要です。
・食事
「脾」をいたわるため、冷たい飲食物・生ものは控えめに。消化の良いものを温かくして、規則正しく摂取しましょう。過度な飲酒や刺激物も避けます。
・ストレス管理
「肝」の気の流れを滞らせないため、自分なりのリラックス法(軽い運動、趣味、深呼吸など)を見つけ、ストレスを上手に発散させます。
・保温
特に下痢型や冷えを伴う方は、腹部(おへその周り)や腰を冷やさないように注意しましょう。
・適度な運動
気血の流れを良くし、ストレス解消にもなります。
改善例
改善例①学校前に腹痛・下痢が出るタイプ
小学3年生・男児。朝、学校に行く前になると腹痛を起こし、トイレに行くと下痢する。休日や長期休みには全く症状が出ずに検査でも異常なし。
肝脾不和による下痢型のIBSと判断し、お腹の緊張を取る漢方薬を処方。10日間で下痢の回数が減り、同処方をその後3か月続けることで問題なく過ごすことができるようになった。
改善例②冷えで腹痛と下痢が悪化するタイプ
20代女性。お腹のことがいつも心配で不安。特に冷えると悪化する。お腹の緊張を取る漢方薬とお腹を温める漢方薬を処方。
処方して2週間で排便の回数が減った。お腹の症状が少しずつ軽くなっていったが、まだストレスがかかると腹痛と下痢を起こす。
お腹の緊張を取る漢方薬から気の流れを良くする漢方薬に変更すると、ずいぶんと調子が良くなり、5か月で薬を減らしても腹痛を起こすことがなくなった。
まとめ
過敏性腸症候群は、単なる「お腹の弱さ」ではなく、ストレスや腸内環境、神経系が複雑に絡み合った病気です。
「過敏性腸症候群(IBS)診療ガイドライン2020」でも、漢方薬は有効な治療選択肢の一つとして言及されています。
漢方(中医学)的な「体質(証)」からのアプローチによって、より患者さん一人ひとりに合ったオーダーメイドの治療が可能です。
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〈参照文献〉
過敏性腸症候群(IBS)診療ガイドライン2020ー過敏性腸症候群(IBS)(改定第2版)
薬草の森はくすい堂 国際中医専門員 権藤
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