
胃の痛みやもたれがあるのに、検査をしても「異常なし」と言われたことはありませんか?
そのような悩みを持つ方の多くが、機能性ディスペプシア(FD)という疾患である可能性があります。かつては「神経性胃炎」や「慢性胃炎」とひとくくりにされてきた症状ですが、現在では独立した疾患として確立されています。
本記事では、日本消化器学会の「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021」に基づき、機能性ディスペプシアの概要から診断、治療法、漢方(中医学)的な対処法まで解説します。
機能性ディスペプシアとは
機能性ディスペプシア(FD:Functional Dyspepsia)とは、「症状の原因となる器質的(がんや潰瘍など)、全身性、代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に心窩部痛(みぞおちの痛み)や胃もたれなどの症状を呈する疾患」と定義されています。
主な症状と分類
FDは、大きく分けて以下の2つのタイプに分類されます。
- 食後愁訴症候群(PDS): 食後の胃もたれや、すぐに満腹感を感じて食べられなくなる症状が中心。
- 心窩部痛症候群(EPS): みぞおちの痛みや焼けるような感じが中心。
なぜ起こるのか
FDの背景には、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
- 消化管運動能異常: 胃が食べ物を受け入れるために適切に広がらない「適応性弛緩障害」や、食べたものを十二指腸へ送り出す力が低下する「胃排出遅延」などがあります。
- 内臓知覚過敏: 胃が伸展刺激や酸に対して過敏になり、通常では痛みを感じない程度の刺激でも苦痛を感じてしまいます。
- 心理社会的因子: ストレス、不安、抑うつなどが脳腸相関(脳と腸が密接に情報を交換し合い、互いに影響を及ぼす関係性)を通じて症状を悪化させることがあります。
- ライフスタイル: 不規則な食事、高脂肪食、睡眠不足、喫煙なども関与していると考えられています,。
日本では健診受診者の約11〜17%に見られる非常に一般的な疾患であり、命に関わることはありませんが、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させることが知られています。
機能性ディスペプシアの診断方法
FDの診断において最も重要なのは、「症状の原因となる他の病気(器質的疾患)がないこと」を確認することです。
診断の手順
まず、問診によって症状の期間や強さを確認します。ガイドラインでは、診断に際して上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)は必ずしも必須ではないとされていますが、これは年齢や病歴、以下の「警告徴候」の有無などから総合的に判断されます。
警告徴候(アラームサイン)
以下の症状がある場合は、胃がんや胃潰瘍などの深刻な病気が隠れている可能性があるため、積極的に内視鏡検査などの精査を行う必要があります。
- 体重減少
- 再発性の嘔吐
- 消化管出血(吐血・下血)
- 嚥下障害(飲み込みにくさ)
- 貧血や腹部腫瘤(しこり)
- 高齢での新規発症
ピロリ菌との関係
ヘリコバクター・ピロリ感染がある場合、除菌後に症状が改善すれば「H. pylori関連ディスペプシア」と診断され、改善しない場合に初めてFDと診断されます。
機能性ディスペプシアの治療方法
FDの治療目標は、患者が満足できるレベルまで症状を改善し、日常生活の質を高めることです。治療は「生活指導」から始まり、症状に合わせて「薬物療法」や「心療内科的治療」を組み合わせて行います。
生活習慣の改善と食事療法
まず最初に取り組むべきはライフスタイルの見直しです。
- 食事内容: 高脂肪食は症状を誘発しやすいため、避けることが推奨されます。
- 食習慣: 規則正しい食事を心がけ、早食いや夜遅くの食事を控えます。
- 嗜好品: 喫煙はFDとの関連が指摘されており、禁煙指導が行われることもあります。
薬物療法(一次治療)
ガイドラインで有効性が強く認められている薬剤は以下の通りです。
- 酸分泌抑制薬(PPI・H2RA): 特にみぞおちの痛み(EPS)がある場合に有効です。
- 消化管運動機能改善薬(アコチアミド): 胃の働きを活発にする薬で、特に食後のもたれ(PDS)に対して高い有効性が証明されており、日本で唯一FDへの保険適用がある薬剤です。
治療と心療内科的治療
一次治療で効果が不十分な場合、以下の治療を検討します。
- 抗不安薬・抗うつ薬: 脳と腸の連携を整えることで症状を和らげます。三環系抗うつ薬などが有効とされています。
- 心療内科的アプローチ: 認知行動療法や催眠療法などが、難治性のFDに対して有効であるとの報告があります。
治療変更の目安は、およそ4〜8週間継続して効果が見られない場合とされています。
漢方(中医学)的な対処法
漢方(中医学)では、機能性ディスペプシアを単なる「胃の不調」とは捉えません。全身のバランス、特に「気(エネルギー)」の巡りや「五臓六腑」の働きが関連していると考え、体質(証)ごとに原因を見極めます。
脾胃虚弱(ひいきょじゃく)
生まれつき胃腸が弱い、疲れやすく、軟便または便秘傾向。胃の「働く力」そのものが不足した状態です。
漢方:六君子湯、香砂六君子湯(イスクラ健胃顆粒)、補中益気湯、参苓白朮散(イスクラ健脾散)など。
肝鬱気滞(かんうつきたい)
ストレスで悪化する胃の張り、みぞおちのつかえ感。「気」の流れが滞り、胃の機能を妨げている状態です。
漢方:開気丸、四逆散、半夏厚朴湯、柴胡疎肝湯、柴胡桂枝湯など。
湿熱(しつねつ)
脂っこい食事や飲酒の後に悪化する胃もたれ、口苦、げっぷ。胃に「熱」と「湿」がこもることで胃の働きを低下させている状態です。
漢方:半夏瀉心湯、温胆湯など。
胃寒(いかん)
冷たい物や生ものの過食、気候変動や冷房による冷えにより胃の働きが低下した状態です。私たちは食事の度に胃に熱を集めることで正常に消化していますが、胃が冷えると働きが低下してしまいます。
漢方:安中散など。
胃陰不足(いいんぶそく)
辛い物の食べ過ぎや過食、加齢、発熱性の病気の後などで胃を潤す「陰液」が不足することで、胃にほてりや灼熱感を感じるともに働きが低下した状態です。
漢方:麦門冬湯、百合配合食品など。
漢方薬による改善例
改善例①
30代男性、システムエンジニア。
会議前や納期が迫るとみぞおちが差し込むように痛み、食欲がない。胃が張ってげっぷが多く、時には吐き気を感じる。寝つきが悪い。
胃カメラでは異常なく、機能性ディスペプシアと診断。
肝鬱気滞証だと判断し、気の巡りを改善する漢方を処方。服用して2週間で胃痛、吐き気、げっぷがほとんどなくなり、寝つきも良くなった。1ヶ月後にはストレスが強い場面でも痛みを感じることがなく、食欲を保つことができている。
改善例②
30代女性
「気持ちよく食べられる日がほとんどない」「胃の存在を常に感じていて、食事の度に不安になる」と言って来店。
病院の薬で一時的に楽になっても忙しさやプレッシャーでまたぶり返し、病院で機能性ディプペブシアと診断された。特に大きな仕事を任されると食事が通らずに下痢をしてしまう。
脾胃虚弱証と肝鬱気滞証と判断して、補気健脾の漢方と疏肝理気の漢方を処方。今では食事の不安を感じることなく、ストレスのかかるイベントも無事にやり遂げることができた。
まとめ
機能性ディスペプシアは、「検査で異常がないから」といって放置したり、我慢したりする病気ではありません。 胃の動きの悪さや知覚過敏、精神的なストレスなどが複雑に絡み合って起こる、明確な治療対象となる病気です。
漢方薬であれば、体質(証)に合わせた適切な薬を選ぶことで、体全体のバランスを整えることができます。
食事の楽しみも生活の質を高めてくれる大切な要素です。「どうせ治らない」と諦めることなく、漢方薬での体質改善を検討いただければ幸いです。
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〈参照文献〉
日本消化器学会/機能性消化管疾患診療ガイドライン2021ー機能性ディプペブシア(FD)(改定第2版)
https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/f
薬草の森はくすい堂 国際中医専門員 権藤
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