2月5日放送の 連続テレビ小説『おむすび』に潰瘍性大腸炎を患う男性が登場したことで、X(旧ツイッター)で潰瘍性大腸炎がトレンド入りしていました。
近年、増加傾向にある難病ですが、漢方薬による体質改善が有効です。ただ、漢方薬を用いた治療には大事なポイントがありますので、悩んでいる方の参考になるよう解説していきたいと思います。
1.潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症や潰瘍が生じる慢性疾患で、下痢、腹痛、血便などの症状を引き起こします。
厚生労働省が定める指定難病の1つで、原因は完全には解明されていませんが、遺伝的要因や免疫系の異常、環境要因(食事やストレスなど)が関与していると考えられています。
症状が落ち着いたり悪化したりを繰り返すことが多いのも特徴です。症状が強く、血便や腹痛、下痢などの症状があり、腸の粘膜にびらんや潰瘍が見られる「活動期」と、症状が落ち着いていて、腸の粘膜からびらんや潰瘍が消え、食事制限がほとんど必要にならない「緩解期」を繰り返すのが一般的です。
2.潰瘍性大腸炎の分類
(1)炎症の範囲による分類
①直腸炎型
直腸炎型は、肛門に近い直腸にだけ炎症が起こっており、直腸以外の粘膜は正常のままです。内服薬などの全身に作用する治療の他に、坐剤などの局所製剤が有効です。
②左側大腸炎型
左側大腸炎型は、炎症が脾彎曲部(ひわんきょくぶ)まで炎症が及んでいます。炎症は脾彎曲部を超えておらず、横行結腸の左側に炎症が起きることが特徴です。内服薬などの全身に対する治療の他に、注腸製剤などの局所製剤が有効です。
③全大腸炎型
全大腸炎型は、炎症が脾彎曲部やS状結腸、横行結腸など大腸全体に拡がっています。大腸全体に炎症が広がると、内服薬や血球成分除去療法、注射剤などによる治療が必要になります。
(2)症状の重さによる分類
排便回数や血便、発熱、炎症などの状態から軽症、中等症、重症の3つに分類されます。
さらに重症の中でも特に症状が激しい場合は「劇症」となります。
①軽度
軽度では、粘膜に炎症が起こると粘膜の一部が充血して赤くなる発赤や、むくみが見られます。また、正常であれば粘膜に血管が透けて見える状態が、炎症やむくみにより見えにくくなります。
②中等度
中等度では炎症が悪化し、びらんや潰瘍などがみられます。また、易出血性(いしゅっけつせい)といって、粘膜に触れることですぐに出血してしまう状態がみられます。
③強度
強度は広範囲に炎症が拡大している状態です。潰瘍が多発し、自然出血している箇所も見受けられます。
④劇症
重症の中でも特に症状が激しく重篤なものを指します。次の項目にすべて当てはまる場合は劇症と診断されます。
☑1日に15回以上の血性下痢が続いている。
☑38度以上の持続する高熱がある。
☑血球数が10,000/mm³以上ある。
☑強い腹痛がある。
3.潰瘍性大腸炎の現代医学的な治療法
(1)薬物療法
軽症から中等症には5-アミノサリチル酸(5-ASA製剤)がよく用いられます。5-ASA製剤の効果が不十分だったり、重症や劇症であればステロイド等が用いられます。
また、潰瘍性大腸炎では免疫の異常によって炎症が起こるため、免疫調節薬によって炎症の要因であるリンパ球の増殖を抑え、腸内の免疫異常を調節します。効果発現に比較的時間がかかるため、寛解期の維持に用いられます。
(2)外科治療
内科的治療によって改善が得られない方、大量下血や穿孔(腸管に穴が空いた状態)を伴う重症や劇症の方、潰瘍性大腸炎によって生じた大腸癌を伴う方には外科治療が選択されることがあります。
4.中医学的に潰瘍性大腸炎を考える
潰瘍性大腸炎における急性期の症状は基本的に「熱」を取る必要があります。しかし、自己免疫疾患で再発を防ぐには「脾」、「肺」、「腎」などを整えていくことが欠かせません。また急性期と緩解期で治療の仕方が大きく変わることも重要な点です。
(1)血熱
体の深部まで熱がこもることを「血熱」と呼び、様々な箇所で出血の原因になりますが、それが大腸に及ぶと血便になります。
涼血という働きを持った漢方薬を用いて治療します。
(2)大腸湿熱
激しい下痢や腹痛、しぶり腹といった症状を引き起こすのは、体の余分な水分である「湿」と「熱」が合わさった「湿熱」という状態です。清熱燥湿という働きを持った漢方薬を使用します。
(3)脾虚
腸管免疫と言われるように、腸は7割の免疫細胞が集中する最大の免疫器官です。中医学的には消化吸収と関係が深い「脾」の働きが充実していることが免疫においても重要になります。また、下痢が長く続くと粘膜が薄くなった脾陰虚と呼ばれる状態を招きます。脾の働きを強くしながら腸管の粘膜を丈夫にする漢方を用います。
(4)腎虚
腎というのは西洋医学的な腎臓からイメージしやすい泌尿器や生殖器の機能だけでなく、内分泌系、免疫系などを含め、体を根本から支える働きを持っています。腎の機能が低下した状態を腎虚と呼び、免疫の低下やさまざまな不調の原因となります。
(5)肺虚
中医学では、五臓と六腑は対になっていると考えられ、これを表裏関係と呼びますが、大腸と表裏関係にある臓腑は肺です。肺は呼吸だけでなく、体温調節を行ったり、免疫の一部を含めた働きを持つため、潰瘍性大腸炎にも関わりが深い臓腑です。
(6)瘀血
血流の悪さのことを瘀血と呼びますが、大腸の炎症が慢性化することによって腸壁の血流は悪化してしまいます。腸の粘膜には毛細血管が張り巡らされており、この毛細血管に血流が届いていないと消化吸収がしっかりできず、腸壁の粘膜も十分に分泌されない状態になり、脾の働きが落ちる原因になってしまいます。
5.潰瘍性大腸炎を治療する際の注意点
潰瘍性大腸炎における漢方治療が難しいのは、急性期には炎症を止める涼血という働きが必要であるのに対し、緩解期には末梢血管の血流を改善する活血という働きが必要になる点です。
潰瘍性大腸炎は強い炎症があると考えられるため、西洋薬であれ漢方薬であれ炎症を止めるために強い働きを持った物を使用します。
しかし、清熱という働きを持った漢方というのは、熱を取る際に血管を収縮させることが多いのです。症状が激しい時には有効ですが、血流を悪化させる可能性があり、長期で使う際には注意が必要です。
例えば数年前、アメリカの学術誌にて、潰瘍性大腸炎に青黛(せいたい)や大青葉(だいせいよう)といった生薬の効果が確認されたという記事が出て話題になりました。しかし、これも炎症を抑える力が強いため、自己判断で使い続けるのは気を付けた方がいい部類の生薬です。
段階的に有効であっても、体質や症状によってどの漢方を使えばいいのかは変わってくるからです。
6.まとめ
指定難病になっているだけあって、潰瘍性大腸炎は症状が重く原因も判明していない難しい病気です。それだけに出ている症状や体質を一つ一つ丁寧に確認しながら漢方薬を選ぶことが重要です。
また、病気の性質上、時間をかけながら体のバランスを整える必要がありますが、食養生などもしっかりと合わせれば決して治せない病気ではありません。
不安を抱えながら悩んでいる患者様が、安心して日常生活を送ることができるお手伝いができれば幸いです。
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